②相談の流れと方法
ここでは、「いちりづか」での相談の流れや方法についてご説明します。
1.まずは詳しくお話を伺います
どの相談形態でもまずは、ご依頼のあった方から詳しくお話を伺います。
例えば保護者からのご相談では、はじめに以下のような内容をお伺いします。
・普段の家庭での様子、学校での様子、学校以外での様子(習いごとや外出時など) ・話せる相手とその時の様子 ・学校の環境や友人関係 ・行動面や発達面の気になること、不安症状や感覚の過敏、こだわり、学習面、など ・すでに受けている診断名や検査の結果(あれば) ・本人の思い、緘黙症状の自覚、困っていること、できるようになりたいこと、など |
その上で、「解決すべき問題は何か」から一緒に考えます。
「話せるようになること」を目指すなら、「誰と話せるようになりたいか」「どんな場面で声が出せるようになりたいか」などについて、さらに詳しく問題を絞っていきます。
解決すべき問題は、「話せるようになること」だけではありません。
不登校への対応(学校に通えるようになりたい、学校以外の過ごし方を考えたい、など)や、その他の問題に取り組むこともあります。
このように解決すべき問題を明らかにして対応しますので、「話を聞くだけ」や「様子を見ましょう」という助言で終わることはありません。
はじめから解決すべき問題が明確になっていなくても大丈夫です。
最初は「緘黙症状があって困っている」「どうしたらいいか分からない」といった漠然とした悩みや不安だけでも構いません。
詳しくお話をお伺いしていく中で、問題が少しずつ明らかになっていったり、取り組むべき課題が見えてきます。
2.具体的で実行可能な計画を考えます
問題が明確になったら、「誰が、いつ、何をするのか」という具体的な計画を保護者や本人と一緒に考えます。
例えば「学校の先生と話す練習」「友だちと話す練習」「お店の人と話す練習」などについて、時間や頻度、場所の条件なども含めて詳細に計画を立てます。
その際に気をつけているのは、現実的に「実行可能な計画」にすることです。
どんなにいい計画でも、相手の協力が得られなかったり、本人や保護者にとってハードルが高すぎたりすれば実行できません。
もちろん、計画を立ててもすべてが思った通りに上手くいくわけではありません。
「やってみたらできなかった」ということもありますが、そういう時も大丈夫です。
その場合は次回の面談でもう一度問題を考え直して、次こそ上手くいく計画にすればよいからです。
3.「話す練習」は宿題形式で進めます
「いちりづか」では宿題形式での練習を基本にしています。
面談で計画を考えたら、実際の「話す練習」は学校や家庭で行うことが多いです。
そして、次回の面談までに練習の記録をつけてきてもらいます。
(記録の例)
日付 | 人 | 場所 | 活動(状況の説明) | 不安レベル |
○月○日 | 担任・母 | 教室(放課後) | しりとり(20回) | 3.5 |
○月○日 | 〃 | 〃 | しりとり(20回) | 3.2 |
○月○日 | 〃 | 〃 | しりとり(20回)・教科書の音読 | 3.3 |
○月○日 | 〃 | 〃 | しりとり(20回)・教科書の音読 | 3.2 |
次回の面談では、この記録を見ながら「次の練習のステップ」を一緒に考えます。
これをくり返していくことで、少しずつ話せる相手や場面を増やしていくことができます。
ここから先は、相談の方法や内容についてより詳しく説明します。
面談の頻度はどのくらいで行うか
宿題形式での練習を基本にしていますので、面談の間隔は1ヶ月以上空けることがほとんどです。
頻度はケースバイケースですが、通常は数ヶ月(学校なら1学期)に1回程度になります。
ですので年間の面談回数は、3、4回くらいになることが多いです。
次回の面談はいつがよいかは、練習方法によっても異なります。
例えば7月に面談をした場合、夏休み中にどのらくい練習できるかによって、次回の面談の時期は変わってきます。
最適なタイミングは面談の際に状況に応じてご提案しています。
改善するまでどのくらいの期間がかかるか
練習開始後、すぐに顕著な効果が現れる方もいます。
進学や就職のような大きな環境の変化によって顕著に症状が改善したり、相談の必要がなくなる方もいます。
改善まで、数年くらいの期間がかかる方もいます。
改善までの期間は、本人の状態や周りの環境、何を目標にするかなど、様々な条件によって異なります。
「いちりづか」では、比較的長い期間を見据えての計画を立てることが多いです。
例えば小学校高学年なら、中学卒業や高校卒業くらいまでを見据えた計画を考えます。
このように長期的な視点に立って計画を考えた方が上手くいくことが多いです。
面談中に「声を出す練習」をすることはあるか
オンライン面談中に「がんばってここで声を出してみよう」といったような促しをすることは、基本的にありません。
「面談中に話せるようになること」ではなく、「学校や職場で話せるようになること」が大事だからです。
もちろん本人の要望があれば、私(高木)と話す練習をすることもあります。
その場合はどのような方法がよいかをしっかり相談してから行います。
初回の面談に本人がいなくても大丈夫か
初回の面談は、保護者からご本人の症状や生育歴、周りの環境などの詳細を時間をかけて聞き取ります。
ですので、初回の面談ではご本人は同席しなくても大丈夫です。
ご本人との面談が必要な場合は、あらためて日時や方法を考えます。
もちろん、初回の面談時にご本人にも待機していただいていれば、そのまま続けて面談を行うことも可能です。
面談には本人も参加した方がよいか
「いちりづか」では、ご本人の意思を最も尊重します。
練習のメニューを考えたり何らかの取り組みを提案したりする場合には、ご本人の意思の確認を行います。
また話す練習を効果的に進めるためにも、ご本人の参加や協力は不可欠です。
ですが面談への参加が必須という訳ではありません。
ご本人が面談を希望しない場合や、文字チャットも含めてオンラインでの面談が難しい場合もあります。
こういった場合は、面談の時間以外の機会にご家族を通じて聴き取りを行ってもらえば結構です。
面談で話せなくても大丈夫か(ご家族からの依頼の場合)
面談ではご本人は一言も声を出さなくても大丈夫です。
文字チャットや身振りで意思表示をしてもらったり、面談中にカメラ・マイクOFFで家族と話してもらったりすることもできます。
面談時間中の意思確認が難しければ、終了後にゆっくり相談してもらい、後からメールで報告していただくという方法でも結構です。
面談で話せなくても大丈夫か(ご本人からの依頼の場合)
もちろん声がだせなくても大丈夫です。
何らかの方法で「コミュニケーション」をとることさえできれば問題ありません。
文字チャットやメタバースでの面談、メールの送信などが可能なら、いずれか可能な方法をご選択ください。
「はい/いいえ」しか意思表示ができなくても、コミュニケーションをとることがはきます。
1つのメールを送るのに数週間かかっても大丈夫です。
時間はかかっても、継続していれば必ず前に進んでいくことはできます。
どんなに緘黙症状が重くても、「何とかしたい」という気持ちがあって、それを何らかの形で伝えてくれさえすれば、方法を考えることができます。
相談は「緘黙症状(話せないこと)」に関わる内容でなくてもよいか
内容は緘黙症状に直接関わることでなくても大丈夫です。
職場の人間関係や進路選択の悩みなど、どんな内容でもお話をお伺いすることができます。
何を相談したらよいか分からないけど、何となく困っていて、とりあえず話だけでも聴いてほしい、といったことでも大丈夫です。
緘黙症状の改善以外の「カウンセリング」を行うこともできるか
不安症状の軽減など、「緘黙症状の改善(話せるようになること)」以外が目標になるケースもあります。
その場合は、認知行動療法などの様々な技法を用いたカウンセリングを行うこともできます。
ただし、はじめから特定の心理療法を行うこと自体を目的にカウンセリングを行うことはありません。
詳しくお話を伺ってから、何をどのように行うのがもっともよいかを検討します。