子どもが園や学校で話していないことに気付いたら

「家では元気におしゃべりをしているのに、園や学校では話すことできない」

 これは「場面緘黙(ばめんかんもく)」と呼ばれる症状かもしれません。

 

子どもが園や学校で話していないことに気付いたら、まず何をしたらよいでしょうか。

 

 

 1.子どもの「緘黙症状」に気付いたら最初にすること:情報収集 

 

子どもの「緘黙症状(話せないこと)」に気付いたら。

まずはしっかり情報を収集することが大切です。

特に「子ども自身についての情報」を把握するのがとても重要です。

 

 1)園や学校での状態を把握する 

まずは子どもの園や学校での状態をしっかり把握しましょう。

 

「緘黙症状」と言っても程度は色々です。

・まったく話せない子

・限られた相手には声が出る子

話せないだけでなく体や表情が固まってしまう子 など

 

園や学校での様子は、先生方から詳しく教えてもらうのがよいでしょう。

「もともと大人しい子だと思っていた」

「家でもこんな感じだと思っていた」

のように、先生から見ても問題に気付けないこともあります。

園や学校と情報を共有し、お子さんの状態の把握に努めましょう。

 

 2)子ども自身からも情報を把握する 

普段のお子さんの様子をよく観察することも大事です。

本人と話せそうなら、直接「話せないこと」について話題にしてみることもできます。

 

困っていることは「話せないこと」だけではないかもしれません。

運動、お絵描き、トイレなど、他にも困っていることがないかも確認しましょう。

 

 3)「場面緘黙」についての情報を集める 

保護者が「場面緘黙」について知ることも大切です。

症状の特徴や対応方法など、まずは基本的な情報をしっかり理解しましょう。

 

 

 2.身近な専門家に相談する 

 

お子さんの状態が「場面緘黙」に当てはまりそうな場合はどうしたらよいでしょうか。

その時はすぐに園や学校の先生に相談するようにしましょう。

 

<担任の先生以外で相談できる相手>

・特別支援教育コーディネーター(学校内の特別支援教育の相談窓口)

・特別支援学級・通級による指導の先生

・養護教諭

・スクールカウンセラー

 

その他の「身近な専門家」に相談することもできます

・自治体の相談窓口:

 「発達相談センター」「子育て支援センター」「教育相談センター」など

・かかりつけの小児科

 

 

 3.最初の段階で相談しておくこと 

 

園・学校の先生や身近な専門家に相談して、どんなことを話したらよいでしょうか。

「聞いてもらって終わり」にしないために、相談内容を明確にしておきましょう。

  

<この時点(最初の段階)で相談しておくこと>

・本当に「場面緘黙」の症状に当てはまるのかの確認

・普段の園・学校での関わり方(支援や配慮)

・普段の家庭での関わり方(してはいけないこと、した方がよいこと、など)

・園・学校との連携の方法の確認(相談方法や窓口の確認、次回の相談、など)

・今後の予定(医療機関の受診、症状の改善方法の検討など、今後行うことの確認)

 

場面緘黙に詳しい人がいなかったら?

身近に場面緘黙に詳しい人がいなかった場合、どうしたらよいでしょうか?

 

そういうときに、思いつきや経験に任せて対応するのは、とても危険です。

誤った対応をしてしまうと、緘黙症状の悪化や長期化にもつながります。

ですので場面緘黙に詳しい専門家を探すようにしてください。

 

特に、相談した結果、次のような話になってしまった場合は要注意です。  

【要注意な対応】

・最終的な対応が「様子を見ましょう」になってしまった

・「心配しすぎ」「そのうちよくなる」という結論になってしまった

「話せないままでも大丈夫」という方向で話が進んでしまった

・「緘黙症状の改善」について話し合われなかった

・情報交換だけで、具体的な対応について話し合われなかった 

 

実際、このような内容で相談が終了してしまうことはよくあります。

これだと「話せるようになること」に向けた取り組みが何も行われません。

このような対応は緘黙症状を長期化させる原因になってしまいます。

 

場面緘黙の症状は適切な対応によって治すことができます。

場面緘黙に詳しい専門家を探すことをお勧めします。

 

緘黙症状改善のための計画を立てるのはいつ

「緘黙症状の改善」は、焦らずしっかりと計画を立てて行っていくことが大切です。

 

この時点(最初の段階)ではまだ、具体的な計画はなくても構いません。

緘黙症状の改善のための計画は、しっかり支援体制や連携ができてからで結構です。

 

 

 4.園や学校での対応の基本 

 

園や学校での対応の基本は次の4点です。

 

 1.無理に話させたり声を出させたりはしない

 2.「話せないこと」以外の困ることにも対応する

 3.対応方法は本人の意見を聞いて考える

 4.症状の改善についても考える 

 

1.無理に話させたり声を出させたりはしない

場面緘黙の症状は「わざと話さない」のではなく「話したくても話せない」状態です。

 

学校生活では音読や日直など、声を出すことが必要な場面もたくさんあります。

こういった場面でも声が出せないのが場面緘黙の症状です。

無理に話をさせるのは絶対にしてはいけません

 

2.「話せないこと」以外の困ることにも対応する

場面緘黙の子のほとんどは、緘黙症状以外にもできないことがあります。

・筆談や、話すこと以外の非言語的なコミュニケーション(身振りや表情など)

・絵を描くこと、楽器の演奏などの表現活動

・運動、体を動かすこと、移動すること

食事や排泄

 

こういった問題がないかも把握し、支援や配慮ができるようにしましょう。

 

3.対応方法は本人の意見を聞いて考える

対応にあたっては、本人の意思がもっとも重要です。

例えば「音読ができない」という場合、どう対応すべきかは人によって異なります。

 

<「音読ができない」への対応の例※あくまで例です

・当てない、順番を飛ばす

・先生と一緒に読む

・クラスメイトと一緒に読む・少人数のグループで読む

・口パクだけできるように頑張る

・別室など別の場所で読む

・放課後など別の時間に読む

・音読を録音して先生に聞かせる

 

どのような方法がよいかは子どもによって異なります。

できるだけ本人の意思を確認して、判断するようにしましょう。

 

4.症状の改善について

場面緘黙の症状は適切な対応によって改善させることができます。

緘黙症状の改善の方法は、慎重に計画して進めるようにしましょう。

 

 

この時点(最初の段階)では、具体的な計画はまだできていないと思います。

ですので焦って練習を始めようとしなくても大丈夫です。

「行き当たりばったり」で話す機会を作っても上手くいきません。

効果のある方法は何か、時間をかけてしっかり検討しましょう。

 

 

 5.家庭での関わり方の基本 

  

基本的な考え方は「4.園や学校での対応の基本」と同じです。

特に家庭での関わり方で気をつけてほしいのは以下の点です。

  

<しない方がよいこと・してはいけないこと>

・話せないことやできないことを責める

・無理に話す場面を作る・行き当たりばったりで練習の機会を作る

・他の人のいる前でできないことをさせようとする

 ・本人が嫌がることを無理やりする(録音を他人に聞かせる、など)

・「人と関わる経験」を増やす目的で苦手なことに挑戦させる

・「そのうちよくなるだろう」と思って何もしない

 

場面緘黙の症状は「わざと話さない」のではありません。

「話したくても話せない」状態です。

 

行き当たりばったりで練習をさせても、「話せない」という失敗経験になるだけです。

・親戚や知り合いに挨拶させようとする

・お店で注文に挑戦させようとする

といった方法を「無計画に」進めるのはお勧めしません。

(しっかりした計画を立てて行うのは結構です)

 

また習いごとなど「人と関わる経験」を無闇に増やすのもお勧めしません。

場面緘黙の症状は「人と関わる経験」の不足から生じている訳ではありません。

人と関わる経験だけを増やしても症状は改善しません。

話す練習を行う場合は、しっかり計画を立てて行うようにしましょう。

 

<した方がよいこと>

・本人の症状や状態をよく理解する

・安心して過ごせる環境・力が発揮しやすい環境を整える

・成功体験を積む・自己肯定感を育む

・本人から相談があった場合はよく話し合う 

 

まずは安心できる環境で力を発揮できることが大切です。

できることにしっかり目を向け、よいところを伸ばしていきましょう。

 

 

 6.そこから先の対応:色々なことが分かってきたら何をするか 

 

ここまでは、緘黙症状に気付いたときの最初の対応について説明してきました。

 

そこから先の対応で大切なのは、

「学校生活等で必要な支援や配慮をしながら、緘黙症状の改善を目指す」こと

 

ただし、そのためのやり方はケースバイケースです。

改めて関係者で集まって緘黙症状改善のための具体的な計画を考えましょう

園や学校での「話せるようになる」ことを目指し、計画を進めていってください。

 

 

 7.気をつけるべき状況:「緘黙症状の改善」につながっているか 

 

もしここまで対応を進めてきて、次のような状態になってしまっていたら要注意です

(「3.最初の段階で相談しておくこと」で紹介したものと同じです)

 

・最終的な対応が「様子を見ましょう」になってしまった

・「心配しすぎ」「そのうちよくなる」という結論になってしまった

「話せないままでも大丈夫」という方向で話が進んでしまった

・「緘黙症状の改善」について話し合われなかった

・情報交換だけで、具体的な対応について話し合われなかった 

 

また対応が進んでいるようでも、次のような状態は注意が必要です。 

 

・医療機関を継続的に受診しているが、

 学校で「話せるようになること」についての具体的な助言や対応がない

・カウンセリングに通っているが、

 学校で「話せるようになること」についての具体的な助言や対応がない

・特別支援学級等を利用しているが、

 「話せるようになること」についての具体的な対応がない

 

要点はどれも同じです。

「話せるようになること」についての具体的な計画や取り組みがあるか

 

せっかく早期に症状に気付けても、効果のない対応をしていては改善が遅くなります。

園や学校で「話せるようになる」ことを目指して、計画的に取り組んでいきましょう。