場面かんもく相談室 いちりづか

【コラム】「不登校にもなっていても、場面緘黙は治りますか?」

「いちりづか」は場面緘黙専門のオンラインの相談室です。
「話せるようになる」ための具体的で効果のある方法を、
一人ひとりの状態に応じてご提案します。

 

学校に行きづらい状態の子でも、緘黙症状は改善させることができます

 

 

 「場面緘黙」も「不登校」も、どちらも専門家の頭を悩ませてきた難しい問題です。この2つの問題が重複してあれば、なおさら対応が難しいと感じる方は多いと思います。

 

 実は、これまで「いちりづか」に相談のあったケースの半数は、場面緘黙の症状だけでなく、学校を休みがちだったり、学校に行けない状態になってしまっている方です。

 長期間不登校になっている方や、社会とのつながりがなくなってしまっている方からの相談も少なくありません。

 

 そういうケースへの対応は確かに難しいと感じます。ですが、解決不能な問題ではありませんでした。

 本人と一緒に長期的な計画を立てて対応していけば、緘黙症状を改善させることができます

 

 ただし、すぐに効く特効薬みたいなものはありません。一人ひとりにあった方法を丁寧に考え、時間をかけて対応していくことが必要です。

 

 

不登校と緘黙症状の改善、どちらが先か?

 

 緘黙症状があって学校に行きづらい状態になっている子への対応として、どこから取り組んでいったらよいでしょう。「まずは学校に行けるようになること」でしょうか。それとも「学校に行くよりさきに緘黙症状の改善」でしょうか。

 答えを先に言ってしまうと、「人それぞれ」です。

 特に不登校の解決は色々な形があります。学校に行けるようになることだけがゴールではありませんので、解決の仕方はなおさら多様です。

 

 ただ「人それぞれ」だとそれで話が終わってしまうので、もう少し整理して解説します。

 「不登校の解決」と「緘黙症状の改善」の2つの軸に分けて考えてみましょう(もちろん、実際にはこんなに単純ではありませんが)。図のように、大きく分けて4つのパターンに分けることができます。

 

不登校と場面緘黙への対応.png

 

私の経験では、この4つのパターンはいずれもあり得ます。

これまで私が関わってきたケースから、4つをそれぞれ紹介しましょう(いずれも複数の実在のケースを元に再構成した架空の事例です)。

 

 

ケース1.「不登校と緘黙症状の改善を同時に目指す」の事例

 

 Aさん、中学生1年生。緘黙症状は幼児期からあり、小学3年生から不登校。

 「担任の先生と話せるようになりたい」という思いがあるが、学校は人がたくさんいて怖くて行けない。学校に行けないので緘黙症状も改善させることができない状態が続いていた。

 筆者との相談につながったのは中学1年生のとき。本人と相談していく中で「夕方、誰もいない時間だったら校舎に入ることはできそう」ということが分かった。

 そこで担任の先生に協力してもらい、「平日の夕方18時半に職員玄関から相談室に行き、しりとりを20回する」という練習を行った。初回の練習は上手くいったため、ここから練習の時間や話す内容、話す相手をスモールステップで増やしていった。

 2年生になるときには教室にも入れるようになり、不登校も緘黙症状も改善に向かっていった。

 

 

ケース2.「まずは緘黙症状の改善を目指す」の事例

 

 Bさん、小学5年生。幼児期から軽度の緘黙症状があった。小学4年生頃から欠席が増え始め、5年生になってからは一度も学校に行っていないため、家族以外とは誰とも話すことができなくなった。

 学校には行けないが、「仲の良い友だちとは遊んだり話したりしたい」と思っている。しかし学校を休むようになってから、友だちと会う機会も全くなくなってしまった。現在の状態では、自分から友だちを遊びに誘うことも難しい。

 相談の中で、まずは「友だちと話せるようになること」を目指すことになった。

 具体的な方法として、それぞれの家でオンラインゲームを一緒にしたら話せるかもしれない、ということが分かった。そこで、相手の保護者の協力を得て遊ぶ機会を作ることにした。

 はじめに土曜日にオンラインでゲームを一緒にする約束をした。最初はボイスチャットはOFFにして一緒にいる家族とだけ話していたが、2回目からはボイスチャットに挑戦し、声を出すことができた。そこからスモールステップで話す距離や内容をステップアップさせていき、やがて家に来てもらっても話せるようになった。

 現在も不登校状態は続いているが、緘黙症状は改善に向かっていった。

 

 

ケース3.「まずは学校に行けるようになることを目指す」の事例

 

 Cさん、小学3年生。幼児期から緘黙症状に加え、登園渋りもあった。小学校に入ってからは登校できていたものの、3年生になってから欠席が増えてきた。

 もともと緘黙症状に加え、強い行動の抑制(動けなくなってしまうこと)があった。学年が上がるにつれて周りから要求される水準が高くなってきたため、学校での緊張が強くなってきた。

 当てられることへの恐怖や、排泄を失敗した経験、給食が食べられないこと、体育で動けなくなってしまうことなどの経験が積み重なり、3年生の夏休み明けから学校に行けなくなってしまった。学校に行きたい気持ちはあるが、行ったときに生じる様々な出来事への不安が強い。

 そこで事前に不安なことや心配なことを丁寧に聴き取った上で、「嫌なことを強制しない」「発言を求めない」など安心して学校で過ごせる条件をしっかり整え、相談室への登校からスタートすることにした

 本人も相談室では発言など苦手なことを求めらないことが分かってきたため、少しずつ学校で過ごせる時間が長くなってきた。そこで本人と相談し、担任の先生とも連携しながら、教室で過ごせるようにステップアップしていくことにした。

 現在も緘黙症状は続いているが、教室で過ごせる時間が増えてきた。

 

 

ケース4.「それ以外のことを目指す」の事例

 

 Dさん、高校2年生。小学校低学年から学校ではほとんど話していない。小学6年生から欠席が増え、中学校の後半はほとんど学校には通わなかった。

 現在は学校に行きたいとは思っておらず、先生やクラスメイトなど学校の人と話せるようになりたい気持ちもない。ほぼ外出することもなく、朝遅くに起きくる生活をしている。趣味はイラストを描くことで、絵の道具を買いに行くことだけはできる。

 保護者からの依頼で相談につながったが、何度か面談を行った後に本人とも直接相談する機会を作ることができた。本人と相談(保護者を通じたやりとり)する中で、描いたイラストを投稿したり、誰かに見てもらったりするのは、やってみたい気持ちがあるということが分かった。

 保護者と相談して、イラスト投稿サイトのアカウントを作り、イラストの投稿に挑戦することにした。知らない人から「いいね」をもらってとても嬉しかったとのこと。このようにして学校外で人との関わりを作り出すことができた。

 またこのことを保護者から担任の先生に伝えたら、学校の作品展に出品しませんかと提案された。本人も乗り気になったため、自分で学校にイラストを持っていくことにした。

 不登校も緘黙症状もまだ改善はしていないが、「家族だけ」に閉じられた関係から、広がりが見えてきた。

 

 

 以上の事例から、不登校と緘黙症状の改善、どちらを先に目指すかも人によって異なることがお分かりいただけたと思います。このように一人ひとりの状態に応じて、その子にあった計画を考えていくことが大切なのです。

 

 

おわりに

 

 「場面緘黙があって不登校になっている」というのは、多くの専門家が対応に苦慮する最難関の状態の一つです。

 私はこれまで数多くそういった子たちの相談を受け、解決までの道のりを一緒に歩んできました。学校や他の専門機関で対応できなかったり、「様子を見ましょう」「そのうちよくなりますよ」と言われてしまった子たちも多いです。

 

 その場合でも、詳しくお話を伺っていけばできることがまだあると思います。

 もし本当に困っている方がいたらご連絡ください