場面かんもく相談室 いちりづか

【コラム】「支援のしすぎで『話さなくても困らない』状態になっている・・・」

「いちりづか」は場面緘黙専門のオンラインの相談室です。
「話せるようになる」ための具体的で効果のある方法を、
一人ひとりの状態に応じてご提案します。

「支援のしすぎ」で「困っていない」状態になってしまう

 

 場面緘黙の相談でよくあるケースの一つに、「本人が困っていない」というのがあります。

 計画を立てて練習していけば場面緘黙の症状は改善させることができるのですが、本人が困っていないから緘黙症状が続いている・・・そんなケースではどうやって対応していけばよいでしょうか。

 

 場面緘黙のある子への対応では、「無理に話をさせようとしない」という鉄則があります。これはもちろん正しいのですが、これをやり過ぎると本人にとって「困っていない」状態を作り出してしまうことになる場合があります。

 なぜこうなってしまうかというと、私は次のようなパターンがあると思っています。

 

1.「障害観」によるもの

・場面緘黙は「個性」だから、無理に変えようとしてはいけない

・場面緘黙は「障害」だから、治そうとしてはいけない(治せない)

・「あるがまま」を受け容れるのが大切

 

2.「教育観」によるもの

・特別支援教育は「治療」ではなく「支援」をすべき

・インクルーシブ教育ではみんなが同じ場所で学べるように「支援」をすべき

 

3.「無理解」によるもの

 ・場面緘黙の症状を治せることを支援者(教師など)が知らない

 

 どれにも共通するのは、「場面緘黙の症状は改善させることができる」という大事な点を見落としていることだと思います。

 

 

 

【架空の例】「インクルーシブ教育」を大切にしている小学校で、緘黙症状が長期化しているAさん

 

 Aさんは小学5年生。保育園の頃から、園では話しづらい様子がみられました。ただ、まったく話せない訳ではなく、仲の良い子にコソコソッと話したり、参観日に保護者と会話したりすることはできていました。

 保育園では子どもたちの個性を大切にしながらも、一人ひとりを丁寧に見ていくという方針がAさんにうまくあって、少しずつ話せる相手や場面を増やしながら、成長していくことができました。

 

 小学校に入るときの就学相談で、場面緘黙の症状についての引き継ぎがなされました。

 この地域の小学校は「インクルーシブ教育」を重視しており、障害のある子でも「原学級」で学ぶことを基本的な方針にしています。このため特別支援学級に在籍している子たちも、できるだけ通常の学級で生活するようにし、支援学級担任がクラスに入ってサポートするという方法を採用しています。

 Aさんの場合も、就学前の相談でどのようなサポートをするかの話し合いがもたれました。

「苦手な授業中の発言や日直の仕事など、声を出すことが必要な場面は支援の先生が代読する」

「メモパッドやタブレットなどを使って声を出さなくても意思の表出ができるようにする」

 といったサポートを行うことになりました。またクラスの子たちにもAさんにこういったサポートをする理由を丁寧に説明して、Aさんが話せなくても困らない学校生活を送れるように配慮しました。

 このようにして、Aさんは安心して学校生活を送ることができるようになりました。

 

 ・・・そして4年後。Aさんは5年生になりました。

 5年生の子たちはAさんのことを「話さない子」だと理解しています。ですのでAさんが話せなくて困るような場面はほとんど生じません。

 ただ、Aさんの緘黙症状はまったく改善していません。改善していないばかりか、保育園の頃は友だちとも少しは話せていたのに、いまは全く話せなくなってしまいました。

 5年生でクラス替えがあってからは、仲の良い友だちとクラスが離れてしまって、今は休み時間も一人でいることが多いです。集団で遊ぶときは誘ってもらえることもありますが、学年が上がるにつれて仲良しのグループが固定化してきてしまって、新しいクラスで「友だち」を作るのも難しいようです。

 

 またAさんの学校では「支援」は重視していますが、「治療」的な対応はほとんど行うことがありません。

 特別支援学級に在籍していてもほとんどすべての時間を「原学級」(「交流級」と呼ぶ方が正しい)で過ごしているため、個別的な指導やトレーニングを受ける機会もありません。

 周りの子たちがよくサポートしてくれることもあり、支援の先生(特別支援学級の担任)がついていなくても困らなくなってしまったので、支援の先生というのも名ばかりのものになってしまいました。

 この地域では、中学校も「インクルーシブ教育」を大切にしているそうです。Aさんは、これから先もずっと「話せない子」のままなのでしょうか・・・。

 

 

 

話せるようになることを目指すアプローチ

 

 Aさんの話は架空の事例ですが、実際にこういうケースにはよく出会います。

 「いちりづか」では、できるかぎり場面緘黙の症状を改善させていくことを目指していますので、こういうケースでも相談があった時点から緘黙症状の改善に受けた取り組みがスタートします。

 

 面談では初めに生育歴や本人の特性、学校や家庭の環境などを詳しく伺った上で、具体的なアプローチについての相談に入ります。このときにまず以下のことをお話しします。

・場面緘黙の症状は改善できること

・場面緘黙の症状を改善させるための具体的な方法

 その上で、本人に対して「話せるようになるための取り組みを行っていきたいか」を確認します

 

 その後の展開は、大きく分けて2つのパターンがあります(本人が面談に同席する場合と、保護者のみの場合がありますが、基本的な進み方は同じです)。

 

1)本人に「話せるようになりたい」という意思があるため、具体的な計画を考え、練習を開始する

2)本人から「話せるようになりたい」という反応が得られない

 

 1)の場合は比較的簡単で、本人と相談しながら緘黙症状改善に向けた取り組みを行っていくことができます。

 この場合は、時間はかかることもありますが、着実に緘黙症状を改善させていくことができます。

 

 一方2)の場合は少し難しいです。

 本人が「話せるようになりたい」と思っていなければ、周りが努力してもそのための練習を進めて行くことはできません。

 もちろん、ここの反応は実際には様々で、本当は話せるようになりたいと思っていてもなかなかそれを保護者に伝えられない、というケースもありますし、練習に取り組むことに不安が大きい、というケースもあります。

 また「中学生になったら話せるようになりたい」のように、少し先の将来に目標を置いている子もいます。ですのでそういったことを丁寧に把握しながら、ここから先の対応を考えていくことになります。

 

 ただその中でわりとよくあるのが、「話せなくても困っていない」というケースです。

 厳密に言えば、全く困っていない訳ではないけれども、色々な支援や配慮があることによってそれなりに学校生活は送れている、という子の場合、「話せるようになりたい」という意思が(表面的には)出づらくなることがあります。これが、上記のAさんのようなケースです。

 

 こういうケースでは、放っておくと本当にいつまでも緘黙症状が続いてしまう危険があると私は考えています。実際に、高校生や大人の当事者の方で、上記のような対応によって改善に向けた取り組みを全くしてこないまま緘黙症状が長期化してしまった、というケースに出会うことは少なくありません。

 小学校からすれば6年間しっかり支援して卒業させればそれで終わりかもしれません。ですが、その子の人生はそこから先の方が長いです。長期的な視点に立って、本当に必要な対応は何かを考えていかなければなりません。

 

 

 

 「困っていない」ケースにどう対応するか

 

 ではこういったケースにどのように対応したらよいでしょうか。具体的な方法はケースバイケースなのですが、「困っていない」という部分にアプローチしていくというのが基本的な方向性です。

 「困っていない」という状態を生じさせているのは何かと言うと、学校からの「支援」や「配慮」です。ですのでこの「支援」や「配慮」を微修正することで、本人に「やっぱり話せた方がいいかも・・・」と思ってもらえることを目指します。

 例えば、学期末の発表会では声を出して発表するように促してみたり、音読を先生に聞かせてもらうことを提案してみたり、といった方法があります(あくまで例です。絶対にこの通りに真似しないでください)。

 

 ただしこのやり方はとても大きなリスクが伴います。

 行き当たりばったりで話すことが必要な場面を作るのはやめてください。対応して失敗すると、これまでできていたことができなくなってしまったり(例えば学校に行けなくなってしまうとか)、取り戻すのに時間がかかったりすることもあります。

 ですのでこの方法の実施する場合は、様々な条件を丁寧に検討しながら、家庭と学校とがしっかり連携し、慎重に慎重に進めるようにしてください。

 

 このアプローチでは必然的に、家庭と学校との連携が必要になります。もちろん本人の意思を確認しながら行っていく必要がありますから、保護者、本人、担任の先生の三者の密接な連携が不可欠です。

 このようにして連携を密にしていくこと、そして本人に対して働きかけていくこと自体が、緘黙症状改善に向けた大きな流れを作り出していくのだと私は考えています。

 

 

 

「いちりづか」には、何ができるの?

 

 

 「いちりづか」では、これまでこういったケースは数多く対応してきました。

 担任の先生向けの資料を渡したり、場合によっては担任の先生の面談に同席してもらったりしながら、効果のある、それでいてなるべくリスクの少ない方法を一緒に考えるという方法を採っています。

 

 本人の気持ちがなかなか向いてこないこともありますが、それでもいつまでも「話さなくても困らない」ままにしてしまうことは、やはり避けるべきだと思っています。そうした取り組みの中で、本人が渋々でも緘黙症状改善に向けた取り組みに参加してくれるようなら、改善への期待が持てます。

 「いちりづか」は場面緘黙専門の相談室ですので、こういったケースに対しても効果のあるアプローチを行うことができます。(ただし「話すことが必要な場面を作る」というリスクも伴う手法であり、高度な専門性が要求されるため、具体的な手続きについてはここではご紹介できません)

 

 条件が4つあって、すべてに該当するケースならこのアプローチが使えます。

1.場面によっては、家族以外の相手にも声を出すことができる

2.緘黙症状以外の問題が少ない

3.本人に十分に説明した上でも、なお緘黙症状の改善に対して消極的である

4.配慮によって「話さなくても困らない」環境にある

 ※3.に関しては、私から本人に説明することもできます。

 

 もしここまでの内容に該当する場合は、ぜひご連絡ください

 

 緘黙症状改善に向けた一歩を踏み出せるようなお手伝いができればと考えています。