【ケース別の対応】支援のしすぎで「話さなくても困らない」状態になっている

「支援のしすぎ」で「困っていない」状態になってしまう

 

対応の難しいケースの1つが「本人が困っていない」という状態です。

練習すれば緘黙症状は改善できるのに、本人が困っていないから話せない状態が続いている・・・そんなケースではどうやって対応していけばよいでしょうか。

 

場面緘黙のある子への対応では、「無理に話をさせようとしない」という鉄則があります。これはもちろん正しいのですが、これをやり過ぎると本人にとって「困っていない」状態を作り出してしまうことになる場合があります。

これには次のようなパターンがあります。

 

1.「障害観」「教育観」によるもの

・「あるがまま」を受け容れるのが大切

・障害は「個性」だから、治そうとしてはいけない

・特別支援教育は「治療」ではなく「支援」をすべき

 

2.「無理解」によるもの

 ・場面緘黙の症状を治せることを支援者(教師など)が知らない

 

どちらにも共通するのは、「場面緘黙の症状は改善させることができる」という大事な点を見落としていることだと思います。

 

 

【架空の例】「話せなくても困らないサポート」によって緘黙症状が長期化しているAさん

 

Aさん(小学5年生)

保育園の頃から、園では話しづらい様子がみられました。ただ、まったく話せない訳ではなく、仲の良い子にコソコソッと話したり、参観日に保護者と会話したりすることはできていました。

保育園では少しずつ話せる相手が増え、卒園式ではみんなの前で発表することもできました。

 

小学校に入るときの就学相談で、Aさんに「どのようなサポートをするか」の話し合いがもたれました。

「苦手な授業中の発言や日直の仕事など、声を出すことが必要な場面は担任が代読する」

「メモパッドやタブレットなどを使って声を出さなくても意思の表出ができるようにする」

「クラスの子たちにもAさんにこういったサポートをする理由を丁寧に説明する」

このようにして、Aさんは安心して学校生活を送ることができるようになりました。

 

・・・そして4年後。Aさんは5年生になりました。クラスの子たちはAさんのことを「話さない子」だと理解しているため、学校生活で困る場面はほとんどありません。

ただ、Aさんの緘黙症状はまったく改善していません。そればかりか、保育園の頃は友だちとも少しは話せていたのに、いまは全く話せなくなってしまいました。

 

5年生のクラス替えで仲の良い友だちとクラスが離れてしまい、休み時間も一人でいることが多くなりました。学年が上がるにつれて仲良しのグループが固定化してきてしまって、新しいクラスで「友だち」を作るのも難しいようです。

Aさんは、これから先もずっと「話せない子」のままなのでしょうか・・・。

 

 

 

「話せるようになること」を目指すアプローチ

 

Aさんの話は架空の事例ですが、実際にこういうケースにはよく出会います。このようなケースでは「話せるようになること」を目指すアプローチを積極的に行っていく必要があります。

そのためには、本人に「練習をすれば話せるようになること」とそのための具体的な方法をしっかり説明することが大切です。

 

 

「話せるようになること」を説明して本人から「話せるようになりたい」という反応があった場合は、比較的簡単です。

本人と相談しながら「話す練習」を行っていくことができるので、緘黙症状を改善させることができます。

 

一方、本人から「話せるようになりたい」という反応がなかったが場合は、少し難しいです。

本人が「話せるようになりたい」と思っていなければ、周りが努力しても練習を進めて行くことができません。

※ここの反応は実際には様々です。「本当は話せるようになりたいと思っていてもそれを伝えられない」というケースもありますし、「練習に取り組むことに不安が大きい」というケースもあります。「中学生になったら話せるようになりたい」のように少し先に目標を置いている子もいます。そういったことを丁寧に把握しながら、対応を検討することになります。

 

このときによくあるのが、「話せなくても困っていない」というケースです。

「全く困っていない訳ではないけれども、色々な支援や配慮があることによってそれなりに学校生活は送れている」という子の場合、「話せるようになりたい」という意思が(表面的には)出づらくなることがあります。これがAさんのようなケースです。

 

こういうケースでは、放っておくといつまでも緘黙症状が続いてしまう危険があります。実際に、高校生や大人の当事者の方で、上記のような「サポート」によって緘黙症状が長期化してしまったケースに出会うことは少なくありません。

 

 

「困っていない」ケースにどう対応するか

 

このようなケースでは「困っていない」という部分にアプローチしていく必要があります。

 

ただしこの方法はとても大きなリスクが伴います。失敗すると、これまでできていたことができなくなってしまったり(学校に行けなくなる等)、取り戻すのに時間がかかったりすることもあります。この方法を実施する場合は、家庭と学校とがしっかり連携し、慎重に計画を立てて進めることが必要です。 

 

「困っていない」状態を生じさせているのは、学校からの「支援」「配慮」「サポート」です。これを微修正することで、本人に「やっぱり話せた方がいいかも・・・」と思ってもらえることを目指します。

例えば、学期末の発表会では声を出して発表するように促してみたり、音読を担任に聞かせてもらうことを提案してみたり、といった方法があります(あくまで例です。絶対にこの通りに真似しないでください)。

 

以下の3つの条件すべてに当てはまる場合は、この「困っていない」を変えていくアプローチを検討した方がよいかもしれません。

 □ 家族以外の相手にも声を出せる場面がある

 □ 緘黙症状以外の問題(外出できない、体が動かない、など)が少ない

 □ 学校からの支援や配慮によって「話さなくても困らない」環境にある

 

 

具体的に何をどのようにするかは、個々の状況によって変わってきます。

「話すことが必要な場面をいつ、どのようなタイミングで作っていくのか」

「本人にどのように説明するのか」

「本人が拒否した場合はどうするのか」

などについて、一人ひとりの状態によって細かく検討して、計画を立てる必要があります。

 

このように保護者と学校が密接に連携し、本人の意思も確認しながら対応していくことで、緘黙症状改善に向けた流れを作り出していくことができます。