場面かんもく相談室 いちりづか

場面緘黙の症状がある子への「合理的配慮」   

「いちりづか」は場面緘黙専門の相談室です。

場面緘黙の症状は適切な対応によって治すことができます。
「話せるようになる」方法を、一緒に考えてみませんか?

学校での支援や配慮にあたって、「合理的配慮」ということばを聞くことがあると思います。

合理的配慮は、「障害のある人が社会生活を送る上で、障害のない人と同じように社会参加したり権利を行使したりできるようにするために行う調整や変更」のことです。

 

場面緘黙の症状のある子も、適切な合理的配慮を行うことでより学校生活を送りやすくすることができます。

ここでは「場面緘黙の症状がある子に学校で行う合理的配慮」について考えていきましょう。

(「合理的配慮」自体の定義や解説などについては、検索すれば情報がたくさん見つかりますので他を参照して下さい)

 

  

学校で行う合理的配慮について

 

合理的配慮については内閣府のリーフレットが非常に分かりやすく書かれていますので、一部引用します。

 

日常生活・社会生活において提供されている設備やサービス等については、障害のない人は簡単に利用できても、障害のある人にとっては利用が難しく、結果として障害のある人の活動などが制限されてしまう場合があります。

●このような場合には、障害のある人の活動などを制限しているバリアを取り除く必要があります。このため、障害者差別解消法では、行政機関等や事業者に対して、障害のある人に対する「合理的配慮」の提供を求めています。

●具体的には、

① 行政機関等と事業者が、

② その事務・事業を行うに当たり

③ 個々の場面で、障害者から「社会的なバリアを取り除いてほしい」旨の意思の表明があった場合に

④ その実施に伴う負担が過重でないとき

⑤ 社会的なバリアを取り除くために必要かつ合理的な配慮を講ずること

とされています。

●合理的配慮の提供に当たっては、障害のある人と事業者等との間の「建設的対話」を通じて相互理解を深め、共に対応案を検討していくことが重要です(建設的対話を一方的に拒むことは合理的配慮の提供義務違反となる可能性もあるため注意が必要です)。

 

これは学校だけについての説明ではありませんが、①の「行政機関等と事業者」には学校も含まれますので、学校のことだと思って読んでも大丈夫です。

①~⑤とその後の説明を分かりやすくまとめると次のようになります。

 

・学校は、本人や家族から申し出があったら、必ず合理的配慮を提供しなければならない

・そのためには「建設的対話」を通じて、必要かつ合理的な(学校側にとっても負担が大きすぎない)配慮の方法を、本人・家族と学校とが一緒に考えることが求められる。

(学校が対話を拒否するのは、法律違反になる可能性がある)

 

 

場面緘黙の症状のある子への合理的配慮の例

 

【注意点】

「場面緘黙の子への合理的配慮」として共通の方法がある訳ではありません合理的配慮は一人ひとりの状態やニーズに応じて個々に検討する必要のあるものです。以下では場面緘黙の症状のある子への合理的配慮の例をご紹介しますが、その方法をお子様にそのまま当てはめて行うことは絶対にしないでください

 

では場面緘黙の症状のある子への学校での合理的配慮について、よくある困りごととそれへの対応の例を紹介しましょう。

合理的配慮1.png

合理的配慮2.png

合理的配慮3.png

 

 

「緘黙症状への配慮の例」だけでなく「不安症状」と「行動の抑制」についても紹介しました。

「話せなくなってしまうこと」以外にも場面緘黙の子が困ることはたくさんありますが、こういった問題も合理的配慮として対応していくことが可能です。

 

 

学校で合理的配慮を検討するにあたって、おさえておきたいポイント

 

1.「合理的配慮の提供」は義務(学校は絶対にやらないとダメ)

「学校が合理的配慮をしてくれない」という話を保護者から聞くことがありますが、このような事態が起こることは通常はあり得ません。

学校が合理的配慮を提供しないといけないことは、障害者差別解消法で定められているからです。

 

上記の話はおそらく、

・「学校に合理的配慮の申請をしていない

・「学校と合理的配慮についての相談ができていない

「学校との間で配慮についての合意がなされていない

のように、「合理的配慮の手続きが進められていない」ということだと思います。

この場合は、学校に正式に合理的配慮の申請をして(方法については、特別支援教育コーディネーターや教頭先生に聞くのがよいと思います)、建設的対話を進めましょう。

 

また別の可能性としては、「合理的配慮について合意はしたが、(何らかの事情で)学校側がそれを行ってくれない」ということは起こり得ます。

例えば担任がうっかりしているとか、実際にはそこまで手が回らないとかです。

こういう場合は、合意した「合理的配慮の実施方法」がなされていない訳ですから、再度相談の機会を作りましょう。

「実際にはそこまで手が回らない」ものを計画しても意味がありませんので、確実に実施可能な方法を考えることが大切です。

とにかく「建設的対話」を行っていくようにしましょう。

 

もし本当に学校が合理的配慮を提供してくれない(明らかに拒否したり、話し合いを拒んだりする)としたら、これは法律違反です

市町村や都道府県の教育委員会に問い合わせてみることをお勧めします。

また上記の内閣府のリーフレットでは小中学校や特別支援学校の場合は「文部科学省 初等中等教育局特別支援教育課」が相談窓口として記載されていますので、こちらに相談してみるのがよさそうです。

 

2.実際にどんな配慮を行うかはケースバイケース(「場面緘黙だから○○」という決まった方法がある訳ではない)

「合理的配慮を提供すること」自体は法律で定められていますが、具体的にどのような配慮をしてくれるかは定められていません。

必要な支援や配慮の方法は人によって違いますので、一人ひとりにあったものを考えていかないといけません。

ですので、くり返しになりますが建設的対話によって合意形成をすることが必要」なのです。

 

3.何ができるかを判断する基準となる「過重な負担」の考え方

合理的配慮を考える際に重要となるキーワードの1つが「負担が過重でないとき」です。

(障害者差別解消法第8条に「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、」と書かれています)

例えば「学校に個室を用意してほしい」とか「支援の先生につきっきりでいてほしい」というのは、明らかに学校側の負担が過重です。

 

「過重な負担の判断」について、内閣府のリーフレットでは次のように書かれています。  

「過重な負担」の有無については、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、

 具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要です。

 ① 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)

 ② 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)

 ③ 費用・負担の程度

 ④ 事務・事業規模

 ⑤ 財政・財務状況

 

これも学校にそのまま当てはめて考えることができるでしょう。

①の「事業の目的・内容・機能を損なうか否か」は重要な判断のポイントだと思います。

その配慮が学校の中で「教育」という機能を損なうかどうかが重要であって、その機能を損なわない配慮なら、しても大丈夫だということになります。

 

 4.こういう思考方法はダメ!「対話の際に避けるべき考え方」

学校に色々お願いしても、「前例がないから」を理由に断られてしまうことがありますね。

ですが合理的配慮では「前例がないから」を断る理由にすることはできません。

 

内閣府のリーフレットでは事業者(学校)に対して、対話の際に「こういう考え方をしてはいけません」という例も説明されています。

大変参考になりますので、そのまま引用しましょう。

 

合理的配慮の提供における留意点(対話の際に避けるべき考え方)

 

「前例がありません」

 ・合理的配慮の提供は個別の状況に応じて柔軟に検討する必要があります。前例がないことは断る理由になりません。

「特別扱いできません」

 ・合理的配慮は障害のある人もない人も同じようにできる状況を整えることが目的であり、「特別扱い」ではありません。

「もし何かあったら…」

 ・漠然としたリスクだけでは断る理由になりません。どのようなリスクが生じ、そのリスク低減のためにどのような対応ができるのか、具体的に検討する必要があります。

「○○障害のある人は…」

 ・同じ障害でも程度などによって適切な配慮が異なりますので、ひとくくりにせず個別に検討する必要があります。

 

「前例がありません」「特別扱いできません」と言われたら、このリーフレットを見せれば大丈夫な訳です。

  

5.手帳は不要だが、診断書は用意しておいた方がいい

リーフレットでは、障害者差別解消法の対象が以下の様に書かれています(法律の条文(第二条一)も概ね同じです)。

【障害者】

● 本法における「障害者」とは、障害者手帳を持っている人のことだけではありません。

● 身体障害のある人、知的障害のある人、精神障害のある人(発達障害や高次脳機能障害のある人も含まれます)、その他心や体のはたらきに障害(難病等に起因する障害も含まれます)がある人で、障害や社会の中にあるバリアによって、日常生活や社会生活に相当な制限を受けている人全てが対象です(障害のあるこどもも含まれます)。

 

手帳は取得していなくてよいとのことですが、私は診断そのものはしておいてもらった方がよいと考えています。

学校側も特別な対応を行う訳ですから、その根拠は明確にしておく方が話が進めやすいでしょう。

診断書に、医師の所見としてどのような配慮や支援が必要かが明記されていれば、学校側も合理的配慮の判断がしやすくなるはずです。

また本人や家族だけの自己診断では誤った判断となる可能性も大きいですので、その点でも医療機関の受診はお勧めします。

 

配慮を受ける側もしっかり準備して、学校と連携して配慮の方法を考えましょう。