【ケース別の対応】本人がその気になるまで待つしかないか?
相談や支援につながりにくいケースに、本人からの援助要請がない・本人が困っていないというものがあります。
カウンセリングにつながっても、本人が「話せるようになりたい」と思っていなければ、緘黙症状の改善につながりづらいです。
本人の協力がなければ対応が難しい。だけど・・・
緘黙症状は、うまく対応すれば改善させていくことができるのですが、そのためには本人の理解と協力が不可欠です。
ですが、本人があまり困っていなかったり、話す練習に積極的に取り組んでくれなかったりすることもあります。
※「話さなくても困らない」状態になっている子への対応は、こちらの記事でも書きました。
そういう時に、本人の気持ちが向いてくるまで待つ、というのはとても大切なことです。本人がやる気にならなければ、話す練習を進めることは難しいからです。
ですが、ただ何もしないで待っていてよいかと言うと、それはあまりお勧めしません。いつまで待っても本人の気持ちが向いてこないかもしれませんし、いつまで待てばよいのかも分かりません。
何もしないまま待っていたら、高校卒業の年齢になっていた、というケースもあります。
「やればできる」という気持ちを呼び起こすために
では、ただ待っているだけでないとしたら、一体何をしたらよいでしょうか。
そこでお勧めしたいのが「場面緘黙の症状は改善する」ということを知ってもらうことです。
「場面緘黙の症状は改善する」ということを、多くの人は知りません。
親や学校の先生、専門職であっても知らないことがあるわけですから、当事者ご本人も「改善する」ことを知らないかもしれません。
知らないことには挑戦できませんし、頑張ってみたいという気持ちも湧きづらいです。「自分はずっとこのままなんだ」と思っている可能性もあります。
でも「練習すれば話せるようになる」ということを知っていれば、頑張ってみようという気持ちが少し出てくるのではないでしょうか。
ですので、話せるようになることを知ってもらうことが、とても大切だと私は考えています。
また、話せるようになるということだけでなく、「どんな練習をするのか」「どうやったら話せるようになるのか」についてもなるべく具体的に説明できるとよいと思います。
練習と言っても、どんなことをさせられるのかが分からなければ不安です。いきなり「みんなの前で教科書を音読してごらん」と言われるかもしれない、と思っていたら、当然そんなことやってみようという気持ちにはなりません。
練習の内容や方法を詳しく説明してあげられれば、本人のやる気を高めることができるかもしれません。
もちろん、そのためには「どんな練習をするのか」を説明する人がしっかり理解していなければなりません。
最近では、本やインターネットで調べた内容でもある程度の知識は身につけることができます。
もし保護者だけで難しいようなら、学校の先生や、スクールカウンセラーなどの身近な専門職の方の力などを借りるとよいでしょう。こういった話を専門職から本人に直接してもらうのも効果的だと思います。
「いちりづか」の面談では、画面越しにご本人に私から詳しく練習の方法などを説明して、「話せるようになる」ということを理解してもらうこともあります。
また、一般的な練習方法は調べれば分かりますが、「実際にどんな練習をするのか」は一人ひとり違ってくるので説明が難しいです。
話す練習の方法にも、「放課後に教室で音読」「担任の先生としりとり」「スマホに録音した声を聞かせる」「友だちを家に呼ぶ」「テレビ電話で話す練習」などなど、色々なやり方があります。この中でどの方法が一番いいのかはケースバイケースです。
理想を言えば、色々なやり方があることを説明して、「こんなやり方があるよ。どのやり方でも大丈夫だよ。どんな方法で練習する?」と本人に聞いて、選んでもらうことができれば、練習はうまくいきやすいでしょう。ですがそこまでのことを行うのは、なかなか容易ではありません。
ですので、やはりここは専門家に任せるのをお勧めします。
専門家につなげるまでの一歩として、まずは「計画を立てて練習すれば、話せる相手や場面を増やしていくことができる」ということを教えてあげることです。
本人が「話せるようになりたい」という思いをもっていること、この入り口の部分がとても大切です。ここさえクリアできれば、あとは話す練習を少しずつ進めていくことができます。
気持ちが向いてくるまでただ待っているだけではなく、ほんの少し背中を押してあげられるといいですね。