緘黙症状の改善に効果のあること、そうでないこと
とにかく何でもやればいい、というものでもない
前の記事では緘黙症状改善のための基本的な考え方を解説しました。
具体的な練習の方法は色々あります。
ですが、「とにかく何でもやればいい」というものではありません。
様々な対応方法を採り上げて、それぞれのお勧め度を説明していきましょう。
【注意点】 以下の内容はすべて「ケースバイケース」です。 「この方法なら誰でも上手くいく」 「この方法はどんなケースでもダメ」 というものはありません。
例えば、「無理やりしゃべらせる」という極端な方法でも、 上手くいってしまうことはあります。 どの方法がよいのかは、時間をかけて検討していくことが不可欠です。
★の数には科学的な根拠はありません。あくまで私(高木)の私見です。
<説明> ★★★★★ 行うことを強く推奨する ★★★★☆ 行うことを推奨する ☆☆☆☆☆ 行わないことを推奨する ☆☆☆☆☆~★★★★★ ケースによっては行った方がいいし、 ケースによっては行わない方がいい |
本人とよく相談する
【お勧め度】★★★★★
緘黙症状改善のために、もっとも重要で効果的な方法です。
話せなくて困っているのは本人ですから、本人とよく相談しながら計画を考える必要があります。
もちろん、年齢や本人の状態によって相談の仕方は異なります。
誰がいつどのように話したらよいかは、慎重に検討しましょう。
「計画的な」練習
【お勧め度】★★★★★
「計画的に」という部分が大事です。
行き当たりばったりで話す練習をさせるのはお勧めしません。
何でもやればいいという訳でもありません。
どんな計画を立てたらよいかは、人それぞれです。
ですのでまずはしっかりと計画を立てるところから始めましょう。
行き当たりばったりの練習
【お勧め度】☆☆☆☆☆
例えば、親戚から何かもらったときに「ほら、ありがとうは」とか言わせようとしてしまうことはありませんか?
それが言えないから困っているのが場面緘黙です。
結果的に、こういうことをやらせようとしても失敗体験にしかならないでしょう。
ですのでこれはやらない方がいいです。
練習は計画的に行いましょう。
「スモールステップ」での練習
【お勧め度】★★★★★
これは計画の考え方として必須の要件です。
練習は「スモールステップ」でなければいけません。
ただし、ただ小さければよいというものではありません。
「スモールステップ」とは「適切な難易度」という意味です。
また、いくらスモールステップでも、練習の方向が間違っていたら意味がありません。
ですので計画の全体像から考える必要があります。
「スモールステップ」については、こちらにも書きました。
ポイントカード方式による「話す練習」
【お勧め度】★★★☆☆
専門的には、「トークンエコノミー」と呼ばれる手法です。お勧め度は高いです。
これを行う場合は、本人とよく相談してルールを決めることが大切です。
星が少ないのは、ポイントカード方式にしなくても(=ご褒美がなくても)練習が進むケースが多いからです。
「ご褒美があるから練習する」ということよりも、「話せるようになりたい」という気持ちの方が、緘黙症状改善の原動力としては大きいです。
なお、専門家の適切な助言のもとに行う場合は、★4~★5になります。
SST(ソーシャルスキルズ・トレーニング)
【お勧め度】★☆☆☆☆(ただし緘黙症状の背景にある問題によっては★5)
多くの場合、場面緘黙はソーシャルスキルの問題(ソーシャルスキルの不足や欠如によって話せない)ではありません。
本人は話さないといけないことも認識しているし、多くの場合は何を言うべきかも分かっています。
それでも話せないのが場面緘黙なのです。
ですのでSSTをしても緘黙症状は改善しないことが多いです。
ただし、話せなくなってしまうことの理由が、ソーシャルスキルの問題であるケースもあります。
「友だちにどのように話しかけたらよいか分からない」「何か聞かれたときにどう返事をしたらよいか分からない」「友だちを誘えない」などのように、コミュニケーションのスキル自体に苦手さがあるケースです。
緘黙症状の背景に自閉スペクトラム症があり、社会的なコミュニケーションの苦手さが「話せない」という状態につながっていることもあります。
そういう場合は★5になることがあります。
SSTによって話す練習をすることで、実際に話せる場面を増やすことができるかもしれません。
コミュニケーションカードを作る(「トイレに行きたい」などの意思表示カード)
【お勧め度】☆☆☆☆☆
コミュニケーションカードを作っても、上手く活用できないケースが多いです。
確かに「コミュニケーション」がとれることはとても大切です。
ですので話せなくても意思表示ができるように、という考え方は自体は正しいです。
ですが、大事なのは「コミュニケーションがとれること」なのであって、別にコミュニケーションカードを使う必要はありません。
筆談でも指さしでも身振りでも視線でもいいわけです。
コミュニケーションカードが上手く活用されないことが多い理由は、「目立つから」ではないかと思います。
話せないことは目立ちますし、筆談も目立ちます。
ですがコミュニケーションカードを使ったらもっと目立ちます。
一人だけカードを使っていたら、誰がどう見ても「話せない子」「変わった子」になってしまいます。
場面緘黙の子たちの多くは、目立つことを嫌います。
ですから、「声を出すことさえできないのに、ましてやコミュニケーションカードを使うなんて」と思う子もいるでしょう。
コミュニケーションカードを使うことではなく、コミュニケーションがとれることを大切にしましょう。
色々な練習方法
色々ありすぎるので、すべてまとめて書いておきます。
【お勧め度】☆☆☆☆☆~★★★★★
・「録音した声を教室で流す」
・「放課後に先生と話す練習をする」
・「お店で注文する練習をする」
・「テレビ電話で話す」
・「転校する」「中学受験して私立の学校に行く」 などなど
緘黙症状改善のためには、色々な練習方法があります。
どの方法が上手くいくかケースバイケースです。
ある子に有効な方法でも、他の子には効果がなかったり、逆効果だったりします。
一人ひとりにあった計画を立てることが不可欠です。
なお、練習方法についてはこちらにも書きました。
またブログで随時紹介していますので、関心のある方はどうぞ。
本人の好きなこと・興味のあることをする
【お勧め度】★★★★★
とても大切です。
創作活動でもオンラインゲームでもスポーツでも、何でもいいです。
何かしたいことがある、というのは社会とのつながりになります。
社会とのつながりは緘黙症状改善の重要な要素です。
友だちと遊ぶ機会を作る
【お勧め度】★★★★☆
遊びたい相手がいて、そういう機会が作れそうなら、どんどん作った方がいいです。
学校で話せなくても、家でなら話せる場合があります。
そして家で話せるようになることは、学校で話せるようになることにつながります。
ですが緘黙症状があると、学校で友だちと遊ぶ約束をすることができません。
家にきてくれれば話せるかもしれないのに、その機会が巡ってこないからいつまでも話せるようにならない、というケースに出会うことは少なくありません。
基本的には強くお勧めですが、「友だちはほしくない」「一人でいたい」という子もいますので、★4にしました。
多くの人と関わる機会を作る・習いごとをたくさんさせる
【お勧め度】★☆☆☆☆
本人が楽しんでいるなら、やってもよいでしょう。
本人が負担に感じるなら、あまりお勧めしません。
緘黙症状の改善という点から言えば、闇雲に場数だけ踏んでも効果は薄いでしょう。
なぜなら場面緘黙は、「人と関わる経験が少ないこと」が原因ではないからです。
もし多くの人と関わっても、話せなかったという結果に終わればそれは失敗経験で、マイナスになります。
行き当たりばったりで色々やるよりも、しっかり計画したことを少しずつ進めて行く方が効果があります。
園・学校との連携(支援会議の開催、個別の指導計画の作成、など)
【お勧め度】★★★★★
これも絶対に行った方がいいです。
子どものケースの相談では、ほぼ100%これをお勧めしています。
園や学校と連携せずに、カウンセリングルームの中だけで症状を改善させようとしても、上手くいかないことが多いです。
カウンセリングのときに話せるようになっても、園や学校で話せるようにならなければ治ったことになりません。
特別支援学級・通級による指導の利用
【お勧め度】★★★★☆
基本的に特別支援学級・通級による指導の利用は、使える場合は利用することをお勧めしています。どちらがよいかはケースバイケースです。詳細は別の記事で説明します。
症状が軽い場合など、特別支援学級・通級による指導の利用がなくても、担任の先生が積極的に協力してくれれば十分なこともあるので★4つにしました。
ただその場合でも、予防的な視点から特別支援学級・通級による指導の利用を検討するのはよいと考えています。
「話さなくてもいい環境」を整える
【お勧め度】☆☆☆☆☆~★★★★★
安心して学校生活が送れるようにするための配慮は大切です。
無理やり声を出させるような場面をつくってはいけません。
ですが、まったく「話さなくてもいい環境」になってしまうことで、かえって緘黙症状を長期化させてしまうというケースも少なくありません。
どんな支援や配慮が必要かは、緘黙症状の程度や本人の意思などによって変わってくるのです。
関連する内容をこちらの記事に書きました。
クラスの子に説明する
【お勧め度】☆☆☆☆☆~★★★★★
これを行うべきかどうかもケースバイケースです。
大切なのは、次の2点です。
・本人が説明してほしいと思っているか
・説明するとしたら何をどう説明するか
ただ「緘黙症状があります」「学校で話せません」と伝えるだけだと、周りの子は「話せない子」と認識してしまい、かえって緘黙症状を悪化させてしまうになります。
メリット・デメリットをよく考え、本人とも相談しながら、どう行うべきかを検討することをお勧めします。
自治体の相談機関の利用
【お勧め度】★★★★☆
自治体の教育相談機関とは、「発達相談センター」や、教育委員会が設置している「教育相談室」や「教育支援センター」、などのことです。どのような機関があるかは地域によって様々です。
こういった公的な相談機関につながっておくことをお勧めする理由は、「学校との連携がしやすくなるため」です。特に教育委員会が設置している機関は、学校との連携が取りやすくなるためお勧めすることが多いです。
しっかりとした知識のある専門職が所属している場合は、適切な助言が得られたり、効果のあるカウンセリングが受けられることもあります。
ただし主眼はあくまで「学校との連携」にあります。自治体の相談機関だけで緘黙症状の改善ができるわけではないので、★4つとしました。
医療機関の受診
【お勧め度】★★★★☆
よく「医療機関を受診した方がいいですか?」と聞かれますが、基本的にはお勧めしています。
理由は色々ですが、医療機関を受診することで得られるメリットがいくつかあるからです。
・診断書の発行など根拠となる書類や情報の取得
・対応の必要性の分かりやすいアピールとなる(=学校での支援や配慮が得られやすい) など
・直接的な治療効果(投薬やカウンセリング)
星が1つ少ないのは、「直接的な治療効果」はあまり期待できないケースもあるからです。
場面緘黙の症状の改善は、病院ではなく学校で行うものだと考えています。医師と話せたり、カウンセラーと話せたりしても、学校での緘黙症状は依然として治らないというケースは少なくありません。
ですので医療機関と学校との連携が大切です。
関連する内容をこちらの記事に書きました。
放課後等デイサービスの利用
【お勧め度】★★☆☆☆
「学校では話せないけど、放課後等デイサービスでは話せる」というケースも少なくありません。また「学校は嫌いだけど、放デイは楽しくかよっている」というケースもあります。
そういう意味では、放課後等デイサービスの利用はプラスになることはあります。
ただし重要な点は、「放デイで話せる」ことが「学校で話せる」ことに結びつくかです。
いくら方デイが楽しくても、「学校で話せる」ことにつながらなければ、緘黙症状改善のための効果は高いとは言えません。
放課後等デイサービスに通うよりも友だちと遊ぶ方が、症状改善の近道になることは多いです。
もし放課後等デイサービスに場面緘黙に詳しいスタッフの方がいて、学校と連携して対応ができるようならお勧め度は★4です。その場合はしっかりと計画を立てて、練習に取り組んでいきましょう。
効果の不明確な「箱庭療法」「芸術療法」「アニマルセラピー」
【お勧め度】☆☆☆☆☆
「箱庭療法をずっとやってるけど、これで場面緘黙が治るの?」という思いが少しでも頭をよぎったら、目的と期待される効果をセラピストに確認することをお勧めします。
その治療方法から、どのような道筋をたどって、どのようなロジックで緘黙症状の改善に至るのか。
そしてそれは緘黙症状改善のための最短の方法なのか。納得できる答えが返ってこなければ、今すぐ他の専門家に相談することをお勧めします。
もちろん、効果があって最適な方法なら、★5ということもあり得ます。
大切なのは「その方法で治るのか」ではないでしょうか。
ただ遊んでいるだけの「プレイセラピー」
【お勧め度】☆☆☆☆☆
場面緘黙臨床において、「プレイセラピー」が行われることは非常に多いようです。
地域の教育相談センターや発達支援センターにかかってそこで専門職とプレイセラピーを受けている、というケースはよく聞きます。
ただ中には、1年も2年も「プレイセラピー」を続けているが、遊んでいるだけで一向に改善しないし、まだ声も出せていない、というケースもあります。
現代美術と壁の落書きを見分けるのが難しいように、「効果のあるプレイセラピー」と「ただ遊んでいるだけ」を区別するのも難しいと思います。
もちろん力量の高い専門家が見れば、それがただ遊んでいるだけなのか、セラピストの一挙手一投足に何らかの意図や意味があるのか、見分けることができるでしょう。
そういう意味でも、臨床というのは「アート」だと思います。
私も臨床で子どもと遊ぶことはあります。
「いちりづか」ではオンラインがですが、オンライン上で一緒にゲームをすることもあります。
それは、その相手と関係を築いたり、相手のことを理解したりするための必要な手段だからです。
そこには明確な目的があります。
ですので、「プレイセラピー」が「ただ遊んでいるだけ」に見えることは往々にしてあります。
その場合は、上の記事と同じで「遊んでいるだけで緘黙症状は改善するの?」とセラピストに聞いてみましょう。
その治療方法から、どのような道筋をたどって、どのようなロジックで緘黙症状の改善に至るのか。
そしてそれは緘黙症状改善のための最短の方法なのか。
納得できる答えが返ってこなければ、やはり他の専門家に相談することをお勧めします。