【ケース別の対応】「スモールステップ」がうまくいかない場合       

相談でよくある質問の一つに、「スモールステップの練習をしているのですがうまくいきません」というのがあります。

 

「スモールステップ」は緘黙症状改善の練習方法としてよく紹介されていますが、実際にこれをやろうとしてもうまくいかないことが多いようです。

どうしたら「スモールステップ」がうまくいくのでしょうか。

 

 

「スモールステップ」というトレーニングがあるわけではない

 

「スモールステップ」というのは心理療法やトレーニングの名称ではありません

練習を計画する上での一つの「考え方」です。ですので「スモールステップの練習をする」とは言えません。

 

「スモールステップの考え方を採り入れて○○の練習をする」というのが正しい使い方です。

大事なのは「スモールステップで何の練習を行うのか?」です。

 

 

スモールステップとは、「少しずつやる」ということ

 

練習を計画する上での一つの「考え方」と説明しましたが、ではスモールステップとはどんな考え方なのでしょうか?

それは文字通り「小さい段階」ということです。

かみ砕いて言うと、「少しずつやる」ということです。

 

ですから、「スモールステップの考え方を採り入れて練習する」というのは、「練習を少しずつやる」というのと同じです。「そんなの当たり前じゃないか」と思う方もいるかもしれませんね。

その通りです。スモールステップというのは特別なことではなく、とても当たり前のことなのです。

 

 

少しずつやるのも、結構難しい

 

ですが、その当たり前のことが、いざ実践しようとするとできないのです。

例えば、こんな場面はないでしょうか。

 

「久しぶりに会った親戚の人から、子どもが図書カードをもらった。お礼くらい言ってほしいと思って促したけど、結局固まってしまって何も言えなかった」

 

「できないこと」にいきなり挑戦させようとしてしまう、まさに「スモールステップ」とは正反対のやり方ですね。

 

場面緘黙の子の保護者なら、久しぶりに会った親戚に「声が出せない」だろうなということは、頭の片隅で分かっていると思います。

それでも実際の場面になると、ついついやらせようとしてしまうんですね。

 

その気持ちをグッとこらえて、計画を立てて段階的に(=スモールステップで)練習していくのが、緘黙症状改善のための取り組みです。

だから、練習はスモールステップで進めましょうね(=少しずつやりましょうね)、とよく言われるわけです。

 

 

よくある失敗は「ただのスモールなステップ」になっていること

 

ではここから、「スモールステップがうまくいかない」の正体を考えていきましょう。

「スモールステップ」の練習がうまくいかないケースにも色々あるのですが、私がもっともよく出会うのは、「ただの小さいだけのステップ」になっているケースです。

 

いくら小さいステップでも、本人がやりたがらないものならうまくはいきません。

本人が協力してくれても、そもそも練習の方向が間違っていたら、症状の改善には結びついていきません。

次のケースで考えてみましょう。(どちらもほぼ実話です)

 

 

【ケース1】「先生の顔を見る練習」

 小学2年生のAさんは緘黙症状だけでなく、学校で動きが固まってしまうという症状もあります。保護者も担任の先生も、Aさんに「まずはコミュニケーションができるようになってほしい」と考えています。

担任の先生は、「コミュニケーションができるようになるには、まずは相手の顔を見ることが大切!」と考えました。そこでAさんと保護者に、「週に1回、放課後10分時間を取って、<担任の顔を見る>練習をしましょう」と提案しました。

Aさんは先生の顔を見るのも楽ではないのですが、それでも先生に向かって声を出すよりはマシなので、なんとか練習に取り組んでいます。 

【ケース2】「カウンセラーのいるところで、母親と話せるようになる」

 小学5年生のBさんは2週間に1回、民間のカウンセリングに通っています。

そこのカウンセラーは、場面緘黙の改善にはスモールステップが効果的と考え、Bさんと保護者に次のような練習方法を提案しました。

「カウンセリングの目標として、まずはBさんがカウンセラーと話せることを目指します。ただしいきなりでは難しいので、前の段階として、カウンセラーのいるところで、お母様とBさんが話せるようになることを目指します。

ただそれもはじめからカウンセラーがいると難しいので、まずはお母様とBさんの二人でプレイルームで話すところから始めましょう

こうして、Bさんとその母親は2週間に1回カウンセリングに通い、誰もいない部屋でジェンガやトランプをする、という練習をすることになりました。

カウンセラーの見ていないところから始めて、少し慣れてきたのでマジックミラー越しにカウンセラーが見る、という条件に変えました。もっと慣れたら、次はカウンセラーが部屋にいる状態で母親と話す、という練習に進む予定です。

 

【ケース1】も【ケース2】も、確かに小さいステップではあるのですが、努力の方向を間違っているように思います。

担任の先生の顔を見るというのは、確かに一つのコミュニケーションかもしれません。でもそれは、そんなに大事なことでしょうか。

Aさんにとって大切なのは、担任の先生や友だちと話せるようになることであって、担任の先生の顔を見られるかどうかは優先順位の高い問題ではないはずです。

 

2つ目の練習はもう少しよく考えられた計画のようですが、恐ろしく遠回りな計画です。この方法なら、もしかしたらある程度時間をかければ(1年?2年?3年?)、「カウンセラーと話せる」日がくるかもしれません。

でもそれは、Bさんの「緘黙症状の改善」に結びつくでしょうか。

「カウンセラーと話せる」ようになっても、そこから「緘黙症状の改善」にはまだ距離があります。それだけ時間と労力(とお金)をかけてカウンセラーと話すことを目指すなら、はじめから担任の先生や友だちと話せるようになるための練習をした方がよいのではないでしょうか。

 

その練習を続けていったら本当に緘黙症状の改善に結びつくのか、それは本人が「やりたいこと」「できるようになりたいこと」なのか。

「スモールステップ」を考える際に大事なのは、「いかに小さなステップを作るか」ではなく、「何を目指すか(=ゴールの設定)」なのです。

 

 

どうしたら「スモールステップ」がうまくいく?

 

さて、基本的な考え方を押さえたところで、どうしたら「スモールステップ」がうまくいくかを考えてみましょう。

どこでうまくいっていないか分かるように、フローチャートを作ってみました。

 

スモールステップ:フローチャート2.png

 

 

 

①ゴールが設定されていない

ゴールがない練習は、いつまでもひたすら練習が続く苦行になってしまいます。

何を目指して練習するのか、どこまでいったら目標達成なのか、具体的なゴールを設定しましょう

 

②本人が決めたゴールではない

何を目指して話す練習をするのかは、本人が決めることが大切です。

本人が自分で決めることが難しい場合も、最低限本人もよく納得している(しぶしぶではなく)ことが求められます。

練習の進んでいく方向が間違っていないか、本人とよく相談してみましょう。

 

③練習内容がゴールに向かっていない

せっかくゴールを設定しても、練習内容がそれに対応していなければ意味がありません。

「その練習を続けていけば、いつかゴールにたどり着ける」という見通しのあるスモールなステップを心がけましょう。

 

④練習が難しすぎたり簡単すぎたりする

難しすぎたら、やろうと思ってもできません。できないことをやらされ続けるのはとても苦痛です。できるところまで難易度を下げましょう。

簡単すぎたら、やってもあまり意味がありません。少しずつ難易度を上げていきましょう。

もちろん練習が進んでいけば、できることもだんだん増えていきます。その時々で、適切な難易度の練習を設定するようにしましょう。

 

⑤練習する環境が整っていない

相手が協力してくれなかったり、練習の機会が設定できなかったりしたら、練習になりません。練習ができても回数が少なすぎたら効果がありません。

相手(友だちや先生など)や家族の都合、場所などの条件、練習の頻度などをよく考えて、現実的に実施可能な練習を計画しましょう。

 

⑥次のステップに進んでいかない 

ある程度練習が進んだら、次のステップに進みましょう。

向かっていく方向はすでにはっきりしているはずですので、少しずつ難易度をあげていくようにしましょう。

 

 目標と練習の方向さえ間違わなければ、あとは少しずつ(=スモールステップで)練習を続けていけば緘黙症状を改善させることができます。

小さいステップなので時間はかかりますが、あせらず練習を進めていってください。