【ブログ】「話せるようになる」ための500の方法
【学校との連携⑤】用語の解説「特別支援学級」「個別の指導計画」「自立活動」など
ここまでこのこのカテゴリーの記事では、学校との連携を効果的に行うには「特別支援学級」や「通級による指導」の利用がお勧めということを解説してきました。
ここから先の記事では、制度の詳しい解説や具体的な連携の方法などを説明していきます。
それに先だって今回は、特別支援教育に関連する基本的な用語について、場面緘黙に関わる事柄にしぼって簡単に説明しておきましょう。
<目次>
0.【重要な前提】自治体による運用の違いについて
1.「特別支援学級」と「通級による指導」の違い
2.「情緒障害」
3.「個別の指導計画」と「個別の教育支援計画」
4.「自立活動」
5.「教育支援委員会」
0.【重要な前提】自治体による運用の違いについて
解説を始めるにあたって、1つだけ重要な前提を確認しておきます。
特別支援教育の制度は「自治体によって運用の仕方が大きく異なることがある」という点です。
例えば、自治体によっては以下のようなローカル・ルールや独自の運用方法が存在します。
・「特別支援学級に在籍している児童も、通常の学級で過ごすことを基本にする」
・「判定にあたっては知能検査が必須になるため、知能検査を実施できない児童は特別支援学級・通級の対象にならない」
・「「情緒障害」の学級・通級が設置されていないため、特別支援学級・通級の対象にならない」
・「特別支援学級・通級を利用する児童が多いため、利用できるのは低学年まで」などなど。
ここで確認しておきたいのは、「制度上は利用する権利が存在するにも関わらず、自治体のローカル・ルールや運用方法によって利用が制限されるケースがある」ということです。
「制度上」というのは、ここでは法律や学習指導要領、文部科学省の通知など、より上位にあるルールでの規程のことです。
より上位のルールで認められている権利ですから、ローカル・ルールで制限されていても、制度を正しく理解して話を進めていけば利用できるケースは多いです(詳しいことはまた今後の記事で解説します)。
しかし、保護者は制度を正しく理解できていませんし、学校側も「そのローカル・ルールが正しい」と思い込んでいるため、利用したくてもできないで諦めてしまうことになります。
このため、私はここから解説するような制度の正しい理解が必要不可欠だと考えています。
1.「特別支援学級」と「通級による指導」の違い
場面緘黙は「特別支援学級」と「通級による指導」の対象になっています。これは重要なので必ず覚えておいてください。
「特別支援学級」と「通級による指導」の最大の違いは、「在籍することになる学級」です。
特別支援学級は「学級」なので、特別支援学級に在籍することになります。
ですので、担任は「特別支援学級」の先生です。
通常の学級との関わりは「交流」という形式になります。
制度上は、学校生活のすべてを特別支援学級で過ごすことが認められます(というより、これが基本形です)。
通級による指導は「学級」ではないので、通常の学級に在籍します。
学校生活の限られた時間(週1時間というケースが多い)だけ通級して、指導を受けます。
指導の内容は「緘黙症状の改善」「障害の理解」など、障害の内容に焦点をあてた治療的な介入が基本です(これが「自立活動」です)。
特別支援学級 | 通級による指導 | |
在籍する学級 | 特別支援学級 |
通常の学級 |
担任 | 特別支援学級担任 |
通常の学級の担任 |
生活の場 |
特別支援学級+通常の学級(交流) |
通常の学級 |
指導の内容 |
通常の教育課程+自立活動 |
通級の時間に行うのは自立活動のみ |
指導時間 |
すべての時間を特別支援学級で過ごすことも、 交流の時間を多めにとることも可能 |
週1~8時間(年間35~280時間) |
「個別の指導計画」作成 | 義務 |
義務 |
「個別の教育支援計画」作成 | 義務 |
義務 |
制度上の障害の分類 | 自閉症・情緒障害 |
情緒障害 |
2.「情緒障害」
情緒障害は特別支援教育の制度上の分類であって、そういう名前の病気や障害が存在するわけではありません。
特別支援教育の制度は、障害の分類(知的障害、視覚障害、聴覚障害、など)によって分けられて運用されています。
情緒障害にどんな病気や障害が含まれるかというと、代表選手は「場面緘黙」と「不登校」です。
その他、不安症や抑うつ、適応障害など、様々な心身の問題が含まれます。
ただ定義が不明確なので、専門家でも「何が情緒障害か」を説明するのが難しいと思います。
「情緒障害は、場面緘黙と不登校と、その他の心身の問題」と覚えておきましょう。
情緒障害は特別支援教育の障害の分類の中では最もマイナーです。
このため、情緒障害を対象とする特別支援学級や通級が設置されていない自治体は多いです(これが特別支援学級・通級の利用しづらさの最大の要因です)。
上記の表では、特別支援学級の対象となる障害が「自閉症・情緒障害」となっています。
つまり特別支援学級では、なぜか「自閉症」と「情緒障害」という全く異なる障害がセットにされています。
これは視覚障害と聴覚障害を同じ学級で指導するようなもので、色々と弊害があります。
「特別支援学級はにぎやかな自閉症の子が多すぎて、場面緘黙の子が使いづらい」は場面緘黙あるあるです。
3.「個別の指導計画」と「個別の教育支援計画」
「個別の指導計画」と「個別の教育支援計画」は、特別支援学級・通級を利用している場合はいずれも作成が必須になっています。
もし作成されていない場合は、早急に学校に確認することをお勧めします。
個別の指導計画は、「指導のための計画」です。
指導とは「教科学習」と「自立活動」を指します。
つまり「一人ひとりに応じた、教科の学習と自立活動での目標と指導内容・方法についての計画」です。
「緘黙症状の改善」を目指す場合は、長期目標を「○○の場面で話せるようになる」のように設定し、そのための具体的な指導の内容と方法を書き込んでおけばよいわけです。
学校側が勝手に作るのではなく、保護者や本人の同意が必要になります。
担任の先生と協力して、いい個別の指導計画を作りましょう。
上手く使われていないケースとしては、以下のようなものがあります。
・保護者に個別の指導計画の存在が知らされていない
・「目標」に場面緘黙と関係することが書かれていない
・「指導内容」が「目標」と関係ないものになっている
・作りっぱなしで活用も修正もされていない
個別の教育支援計画は、学校以外の他機関と連携して長期的な視点で支援を行っていくための計画です。
「支援の計画」というよりも、検査の結果や受けた診断、つながっている機関、過去に受けた治療や対応などまとめておくもの、と捉えておくとよいでしょう。
こちらは基本的には作りっぱなしで、支援会議など必要なときに参照すればよいでしょう。
4.「自立活動」
「自立活動」は耳慣れない用語だと思いますが、超重要語句なので必ず覚えておいてください。
自立活動は学校教育の教育課程の一部で、障害や病気によって生じる学習や生活の困難を、改善・克服していくための「治療的な介入」のことです。
視覚障害のある子だったら、杖を使って歩く練習や、点字の読み書きなどの指導をします。
聴覚障害のある子だったら、補聴器の活用や、手話・口話などを使ったコミュニケーションの指導などをします。
場面緘黙のある子だったら、緘黙症状の改善(話す練習)が真っ先に挙がるでしょう。
特別支援教育の教育課程は「通常の教育課程+自立活動」で成り立っています。
つまり、「特別支援教育=自立活動を行うこと」と言ってもいいくらいです。
上記の表の通り、特別支援学級でも通級でも、自立活動の指導は必ず行わないといけません。
なぜ自立活動が重要かと言うと、これによって「学校で話す練習をする」というのが「正規の教育課程の一部として行われる」ことになるからです。
「話す練習」は学校教育とは関係ないことではなく、教育課程の一部として、学校が責任をもって行わないといけないことなのです。
5.教育支援委員会
教育支援委員会は、市町村教育委員会に設置されている、児童・生徒が特別支援学級や通級の対象になるかどうかを話し合う会議です。
教育学や医学、心理学の専門家など、外部の専門家も参加しています。
就学先を最終的に決定するのは教育委員会ですが、特別支援学級や通級の利用が適当かどうかの実質的な判断はこの教育支援委員会で検討されます。
通常、以下のような手順で話が進んでいきます。
保護者からの利用の申請
↓
校内委員会で検討(学校内の会議)
↓
諸検査や行動観察により資料作成(教育委員会の担当者が行うことが多い)
↓
教育支援委員会で検討(年に何回か開催される)
↓
市町村教育委員会が最終的な判断
↓
保護者・本人との合意形成
↓
利用開始
つまり、判定までにはけっこう時間がかかるということです。
制度上は年度の途中からでも利用を開始することが可能ですが、年度のはじめから利用開始になるケースが多いです。
例えば:
小学校に上がるときに特別支援学級の利用を申請しようか迷ったが、はじめは通常の学級でスタートした。しかし夏休み頃から色々難しさが出てきたので、担任の先生と相談を始めた。しばらく様子を見ましょうと言っていて話が進まず、結局正式に小学校に利用の意思を伝えたのは2学期末になった。検査結果や診断書等の資料が必要であり年度内の教育支援委員会には間に合わなかったため、2年生になってから会議にかけることに。翌年度の最初の教育支援委員会で特別支援学級の判定が出たが、年度途中での入級はできないと言われ、利用開始は3年生からになってしまった。
こういったケースも考慮し、早めに話を進めていくことが大切です。
まとめ
学校との連携のために知っておくと役に立つ用語の解説を行ってきました。
それぞれについてより詳細な説明が必要なところや、実際の活用の仕方、上手くいかない場合の裏ワザなどが色々あります。
また今後の記事で解説していきたいと思います。
【注意点】
この記事の内容は、日本の一般的な学校教育を念頭に書いています。
日本の学校でも、私立の学校などの場合は当てはまらないことがあります。