【ブログ】「話せるようになる」ための500の方法
【連載:場面緘黙と不登校】第4回 背景にある要因:氷山モデルで考える
では場面緘黙と不登校の背景にある要因を考えてみましょう。
第3回の記事では場面緘黙と不登校に共通する要因について述べましたが、それ以外に「主に場面緘黙に関わる要因」や「主に不登校に関わる要因」もあります。
また要因は単一のものではなく、様々なものが存在しています。
そこで図をこのように描き変えておきましょう。
これは厳密な意味ではなくあくまで感覚的な話ですが、両者に共通する要因の方が、場面緘黙や不登校だけに関わる要因よりも多いと考えています。
つまり場面緘黙の要因になることの多くは不登校の要因にもなる、ということです。
ではここからが本題です。
今回は場面緘黙や不登校の背景にある要因を理解するために、「氷山モデル」という考え方で説明します。
まず先に、場面緘黙を例に考えてみましょう。
場面緘黙の背景にある要因
氷山の水上に出ている部分が周りから見えている問題(=緘黙症状)です。
水面の下には、その背景に目に見えない様々な要因が存在しています。
<本人側の要因>
場面緘黙の場合、「不安や緊張の感じやすさ」「繊細さや敏感さ」といった、本人の気質や性質の要因が大きいと考えられています。
また人によっては、言語やコミュニケーションの能力に苦手さがあることもあります(もともと話すのが苦手、文を作るのが苦手、人と関わるのが苦手、声が出しにくい、その国や地域の言語が十分に使えない、など)。
吃音や構音障害のような、「言語障害」と呼ばれる問題が関わっているケースもあります。
「自閉スペクトラム症」のような、その他の発達障害が背景にあるケースも少なくありません。
要因と呼ぶべきかは議論の余地がありますが、「社交不安」や「分離不安」といった不安症を併存しているケースも多いです。
<環境側の要因>
またこのような本人側にある要因だけでなく、本人の外側にある「環境側の要因」も重要です。
相手の態度や話し方、相手との関係、時間や場所、適切な支援や配慮の有無、音や匂い、話し声等の環境の刺激、など様々な条件が影響します。
こういった様々な要因が相互作用した結果が、表に出てくる「緘黙症状(話せなくなってしまうこと)」なのです。
もちろん、どの要因がどの程度影響しているかは人によって異なります。
不安が強い場面緘黙の子もいますし、言語の問題が大きい子もいますし、自閉スペクトラム症の症状と捉えた方が適切なケースもあります。
本人側の要因よりも、環境側の要因によって緘黙症状が続いてしまっているケースも少なくありません。
不登校の背景にある要因
では次に不登校について考えていきましょう。
場面緘黙と同様、不登校の背景にある要因も多様です。
話を簡単にするために先に述べておくと、まず上で書いた場面緘黙の背景にある要因の大半は、不登校の要因にもなりうると考えて構いません。
<本人側の要因>
・「不安や緊張の感じやすさ」「繊細さや敏感さ」といった、本人の気質や性質の要因
・「自閉スペクトラム症」のような、その他の発達障害が背景にあるケース
・「社交不安」や「分離不安」といった不安症を併存しているケース
<環境側の要因>
・相手(教師やクラスメイト)の態度や話し方、相手との関係
・時間や場所(行きづらい場所や時間帯)
・適切な支援や配慮の有無
・音や匂い、話し声等の環境の刺激、など
上記の中で不登校の要因から除外したものは、「言語やコミュニケーションの能力の苦手さ」と「言語障害」です。
(もちろん吃音や構音障害が不登校の要因になることもあるでしょうが)
これを考えれば、場面緘黙と不登校が同時に出てくることが多い理由はお分かりいただけると思います。
また、上記以外にも不登校の背景となる要因は多数存在します。
・上記以外の心身の問題:起立性調節障害、過敏性腸症候群、適応障害、パニック症、身体愁訴、など
・学校生活に起因する過剰な負担や刺激:学業や部活、その他の学校生活上のできごと、など
・本人の意図的な怠学や学校の拒否、など
これらは場面緘黙の要因にはなりにくい、不登校側の要因と言えます。
背景にある要因:まとめ
ここまでの内容を図にまとめると、以下のようになります。
かなり単純化してありますので、これだけですべての場面緘黙と不登校の問題を説明できるわけではないですし、よく当てはまらないケースもあるでしょう。
それでもこれからこの問題を考えていくための大まかな見取り図にはなると思います。
さて、ここまで前置きが長くなりましたが、場面緘黙と不登校がいかに密接に関係しているかがご理解いただけたのではないでしょうか。
ではいよいよ次の記事からは、対応方法について考えていきたいと思います。