【ブログ】「話せるようになる」ための500の方法

2024-02-27 21:00:00

【学校との連携⑥】「特別支援学級」と「通級による指導」のどちらを選ぶか

「特別支援学級」と「通級による指導」について、前回の記事ではその違いを説明しました。

では特別支援学級と通級の選択についてはどう考えたらよいでしょうか。

 

判断にあたって考慮すべき要素は無数にありますが、あえて単純化すれば「問題は緘黙症状だけか」が判断のポイントと言えると思います。

 

 

「緘黙症状の改善」か、「学校生活全般にわたる支援」か

 

「通級による指導」は通常の学級に在籍し、週に1時間程度通級して指導を受けるというものです。

この指導は「自立活動」と呼ばれ、「緘黙症状の改善」「障害の理解」など特定の問題の改善・克服に焦点をあてた治療的な介入が行われます。

そして、以外の時間は通常の学級で他の子たちと同じように過ごします。

ですので、緘黙症状以外には大きな問題がない場合は、通級による指導が適していると言えるでしょう。

 

一方、「特別支援学級」は学校生活の多く(あるいはすべて)の時間を過ごす場です。

授業の他、休み時間や給食、掃除、学校行事なども特別支援学級で行うのが基本です。

(ただし実際の運用面では、通常の学級との関わり(交流)の時間をかなり長めにとっているケースもあります)

緘黙症状以外にも行動の抑制などの問題が大きく、学校生活全般にわたって支援や配慮が必要な場合は、特別支援学級を利用した方がよいでしょう。

 

とは言え、実際はそれほど単純ではありません。

そもそも「緘黙症状だけが問題」という場面緘黙の子はほとんどいないからです。

大半のケースでは、話せないだけでなく、運動や書字、着替え、食事、排泄などの行動面での問題を伴います。

ですのでそういった要素を考慮しながら、「生活の場としての特別支援学級」がよいのか、「緘黙症状の改善に特化した通級による指導」がよいのかを総合的に判断していくことになります。

 

 

選択するための要素

 

・担当教員の「専門性」

より専門性の高い担当教員がいるかが、最も重要な要素ではないかと私は考えています。

特別支援学級に在籍していても通級を利用していても、担当教員が場面緘黙のことを理解していなければ意味がありません。

特別支援学級と通級とで一概にどちらが専門性が高いかは言えませんが、通級の方が教師の研修の機会が多く、担当するケースも多いため専門性が高まりやすい傾向はあると思います。

ただしここでいう「専門性」とは、「知識」や「経験」だけのことではありません。

知識があっても、実際にその子と上手に関わることができなければ意味がありません。

反対に、知識はなくても関わり方が上手な教師もいます。

そういったことも含めた「専門性」が重要です。

 

在籍する他の児童・生徒との関係

これは特別支援学級だけに当てはまることですが、在籍している他の子たちも大きな要素と言えます。

特別支援学級の場合、「自閉症・情緒障害」という分類になっているため、「自閉スペクトラム症」の症状のある子たちが在籍しているケースが多いです。

自閉スペクトラム症にも多様な症状がありますが、多動傾向の強い子や、他者との関わりに苦手さのある子がいる場合、場面緘黙の子にとってはかえって過ごしづらい場になってしまう可能性もあります。

 

・学校の特別支援教育の運用方針

前回の記事でも指摘しましたが、学校や自治体のローカル・ルールは様々です。

例えばある自治体では、「インクルーシブ教育」と称して「特別支援学級に在籍する児童も原則として通常の学級で過ごす」という運用をしています。

これでは、せっかく特別支援学級に在籍しているのに、肝心の「生活の場」が保障されないことになっていまいます。

 

また「国語・算数は特別支援学級、それ以外は通常の学級」という運用を(個々の実体を考慮せずに機械的に)行っている地域もあります。

場面緘黙は学習面の問題が主訴ではないので、むしろ「国語・算数は通常の学級」の方がよいでしょう。

反対に、「給食や掃除、音楽、体育などは特別支援学級」とした方が、かえって安心感をもって過ごせるかもしれません。

こういった学校や自治体の運用方針も、特別支援学級か通級かの選択の際の重要な判断基準となります。

 

・自校通級か他校通級か

自治体や地域によっては、まだ通級の設置数が非常に少ないところがあります。

これは地域による格差が大きく、ほぼ全校に通級が設置されているところもあれば、5校に1校にも満たない地域もあります。

通っている学校に通級が設置されていない場合は「他校通級」または「巡回」という方式になります。

「他校通級」の場合は設置されている学校まで通う必要が生じますが、地域によっては片道20分以上かかるところもあります。

負担に見合っただけの効果が得られるかも、判断の要素になるかもしれません。

 

「雰囲気」や「相性」

「雰囲気」や「相性」のような客観的には測れない要素も、場面緘黙のような症状のある子たちにとってはとても重要です。

色々な条件がよくなくても、その子が「ここならよさそうだ」と思えれば、緘黙症状の改善につながっていくかもしれません。

両方をしっかり見学して、より合っていると思える方を選ぶことが大切だと思っています。

 

 

その他の長所と短所

 

<特別支援学級>

長所

・利用時間が長いため、教師と関係を築きやすい

・話す練習の場を設けやすい

・手厚い支援が受けられる

短所

・クラスメイトとの交流の機会が制限される

・複式学級(他学年の児童・生徒で構成される学級)の場合、学習に遅れが生じる可能性がある

 

<通級による指導>

長所

・必ず個別の指導の時間が確保される

短所

・時間や頻度が少ないため、この時間の指導だけでは効果が出づらい

・通級での指導の成果を通常の学級に活かすこと(汎化)が必要になる

・在籍校に通級が設置されていない場合、他校に通わなければならない

 

 

【注意点】

この記事の内容は、日本の一般的な学校教育を念頭に書いています。

日本の学校でも、私立の学校などの場合は当てはまらないことがあります。