【ブログ】「話せるようになる」ための500の方法
【学校との連携⑧】「個別の指導計画」の作成と活用
制度の話が続いてしまいましたので、もう少し具体的な連携や対応について検討していきましょう。
今回は「個別の指導計画」の作成と活用です。
個別の指導計画については【学校との連携⑤】にも書いておきました。
ポイントは以下のとおりです。
・「一人ひとりに応じた、教科の学習と自立活動での目標と指導内容・方法についての計画」
・特別支援学級・通級による指導の対象となる子については作成が必須
・作成にあたっては保護者や本人の同意が必要
何をどう書いたらよいのか
不思議なことに、個別の指導計画の様式というのは存在しません。
文部科学省が個別の指導計画の様式例を示しており、各自治体はこれを基に独自で様式を作り活用しています。
このため地域や自治体、学校によって含まれる項目が異なります。
(余談ですが、個別の指導計画の作成と活用が未だにできていないケースがあるのは、これが影響しているのではと思っています)
さて、共通の様式が存在しないので、ここでは私が例として独自に作ったものを見ながら解説していきましょう。
こちらは小学2年生の場面緘黙症状のある子(架空の例)の通級による指導(自校通級)の個別の指導計画です。
私が個別の指導計画で重要だと考えているのは、以下の項目です。
1.本人の願い
2.主訴
3.長期目標
4.短期目標
5.指導の内容と方法
6.評価(成果と課題)
1.本人の願い
これが最重要項目です。
そして、これ以降の内容はすべて「本人の願い」を踏まえて考えていくことを意識しましょう。
緘黙症状に関することが書かれているとよいですが、子どもによっては緘黙症状以外のことでもっと困っていることやできるようになりたいことがあるケースもあるでしょう。
その場合、それを書いておくのはもちろん大事ですが、「緘黙症状に関しての、本人の願い」という視点からもう少し掘り下げてみてもよいと思います。
【事例の解説】
この例だと「友だちと話せるようになりたい」「授業中など、聞かれたときに答えられるようになりたい」の2点が挙げられています。ですので、それを達成するためにどうしたらよいかと考えていくようにしましょう。
ただしこの例では「友だちと話せるようになりたい」についての取り組みは書かれていません。それは、この架空の例では友だちと話せるようになるための取り組みは、学校ではなく主に家庭で行うことを想定しているからです(そのように書かれてはいませんが)。その理由としては、通級による指導では「友だちと話せるようになる」に対して直接的にアプローチするのは少し難しいことが挙げられます。
また、以下で説明しますが「家で音読を録音し、通級の教室で再生させる」という練習も、やや遠回りではありますが友だちと話せるようになることにつながっていきます。
2.主訴
主訴は本人の願いと近いですが、支援者側から見たより客観的な問題の把握が「主訴」だと考えればよいでしょう。
この子がどんなケースなのか、何が問題で相談にかかっているのか、を明確にしておきましょう。
緘黙症状の他に、「視線が怖くて教室に入れない」「体の緊張が強くて○○ができない」なども主訴になることがあります。
3.長期目標と4.短期目標
長期目標・短期目標がそれぞれどのくらいの期間を指すのか明確な決まりはありませんが、私のイメージは以下の通りです。
・長期目標は数年(1、2年から、小学校低学年なら小学校卒業・中学校入学くらいまで)
・短期目標は数週間~数ヶ月(学期末か、長くても年度末まで)
短期目標は、長期目標とつながりのあるものでなければなりません。
複数の短期目標をこなしていくことでやがて長期目標が達成される、ということを意識して短期目標を考えましょう。
このため、長期目標に比べて短期目標の方がより細分化された具体的な記述になります。
また短期目標は、1学期程度で現実的に達成可能な目標を設定する必要があります。
「今学期中に何ができるようになることを目指すか」という視点で考えるとよいでしょう。
そして長期目標・短期目標に関して最も重要なのは、本人と相談して決定しなければならない、ということです。
(「目標」なので当然なのすが)
【事例の解説】
この例では、それぞれ以下のように目標を設定しています。
◆長期目標「学校で友だちや先生と話せるようになる」
◆1学期の短期目標「家で音読を録音し、通級の教室で再生させることができる」
◆2学期の短期目標「通級の先生に、音読の録音を聞かせることができる」
この場合の長期目標の期間は、小学2年生なので「高学年になるくらい」をイメージしています。「4年生くらいまでには、学校で友だちや先生と話せるようになったらいいなぁ」くらいの感じです。
その長期目標を達成するために、通級では「音読を学校で再生させる」という方向で取り組むことになりました。つまり短期目標を考える段階で、「指導の内容と方法」もセットで考えているということです。
1学期中に通級の教室で録音の再生ができて、2学期には通級の先生に聞かせられるようになって、そして3学期には・・・、といった感じで短期目標をクリアしていくことで、長期目標の達成を目指しています。
またどこかの段階では、「友だちに録音を聞かせる」という目標も入ってくるかもしれません。このようにして「友だちと話せるようになりたい」につなげていくことができます。
5.指導の内容と方法
具体的にどのような練習を行うかをここに明記します。
少し細かい話ですが、「内容(何を)」と「方法(どのように)」の両方が大事です。
特に「方法(どのように)」をより具体的に考えておくことで、練習が進めやすくなります。
もし学級担任に協力してもらって話す練習を行う場合は、この「指導の内容と方法」に明記しておくとよいでしょう(【学校との連携②】で説明したのはこのことです)。
指導計画に明記してあれば「頼んだのにやってくれない」ということはなくなります(もしできないことなら、指導計画作成の段階で「できません」と言われます)。
【事例の解説】
この例では、以下の内容と方法が書かれています。
・家で教科書の音読を録音し、通級の時間に先生のいないところでぬいぐるみに聞かせる
・先生が廊下にいる状態で録音を再生する
・先生が教室にいる状態で録音を再生する
実際の練習はもっと細かいスモールステップを設定して行っていきますが、「個別の指導計画」は進捗状況に応じて毎週書き直す訳にはいかないので、このくらいでも構いません。
この例では録音を聞かせるという練習方法を採用しています。録音を使った練習についてはこちらに書きましたので、より具体的な練習方法について想像してみてください。
6.評価(成果と課題)
練習はPDCAサイクルで進めていきます。
学期末の時点で、短期目標が達成されたかどうかをしっかり見直し、次の練習方法を考えましょう。
・短期目標が達成されていたら
→次の短期目標とそのための練習方法を考えましょう。
・短期目標が達成されていなかったら
→達成されなかったのはなぜかをしっかり考えましょう。
難易度が高すぎたのか、練習回数が足りなかったのか、本人の意欲が湧かなかったのか、他の理由か。
ここの見直しがしっかりできれば、仮に1学期でうまくいかなくても2学期では成果を出すことができるはずです。
【事例の解説】
この例では、以下のように書かれています。
・音読を聞かせる練習が11回できました。はじめは録音するときの不安レベルが・・・
欄の大きさの都合で省略してしまいましたが、もし詳しく書くとしたらこんな感じです。
・ぬいぐるみに音読を聞かせる練習は1学期で11回できました。最初の2回は「録音するとき」の不安レベル(※1~5で記録)が4でしたが、3回目からは少しずつ下がっていきました。下がった理由を聞くと「慣れた」とのことでした。
不安レベルが2.5まで下がったので、録音を聞かせる相手をぬいぐるみではなく、タブレットのビデオ通話の画像に変えました。○○(先生の名前)が画面越しに映っていて、マイクをOFFにしているので相手には音声は聞こえない状態での再生に挑戦しました。不安レベルは少し上がりましたが、練習を続けるうちにこれも慣れてきたようです。
直接○○に聞かせるのはまだできないそうですが、2学期に挑戦したいとのことでした。
ここまでの内容で、「1.本人の願い」から「6.評価(成果と課題)」までつながりをもって作成されていることがお分かりいただけたと思います。
このように「1.本人の願い」から「6.評価(成果と課題)」までのつながりをしっかり意識していけば、よりよい個別の指導計画を作成することができるはずです。
個別の指導計画は本人・保護者と学校との共同作業
個別の指導計画作成は学校側が責任をもって行うものですが、本人・保護者との共同作業で行うことが大切です。
それぞれの頭の中にあることや考えていることが違っていても、個別の指導計画という道具を使うことによって、共通理解を図り、同じ方向を向いて進んでいくことが可能になります。
連携を促進し、計画を効果的に進めるためのツールとして個別の指導計画が活用できるといいですね。
【注意点】
この記事の内容は、日本の一般的な学校教育を念頭に書いています。
日本の学校でも、私立の学校などの場合は当てはまらないことがあります。