場面かんもく相談室 いちりづか

【ブログ】「話せるようになる」ための500の方法

「いちりづか」は場面緘黙専門のオンラインの相談室です。

場面緘黙の症状は、適切な対応によって
必ず改善させることができます。

「場面緘黙を治す」「話せるようになる」ための
最も効果的な方法を、
一緒に考えてみませんか?
2024-03-03 16:00:00

【中学生、女性】不登校の状態でも緘黙症状が改善してきた子

 

【対象】はるかさん(仮名)女性

相談開始時は中学1年生

 

【概要】

小学校低学年から緘黙症状があり、高学年からは学校に行けなくなってしまった中学生の女の子です。イラストがとても上手で、雑誌やSNSに投稿したり、イベントで販売したりもしていました。当初から「友だちと話せるようになりたい」という気持ちがあったので、学校に通うことよりもまずは緘黙症状の改善を目指しました。友だちとのメールの交換から練習を始め、途中からは中学校の先生とも話す練習を行うことにしました。相談開始から半年程で練習の効果が出始め、学年の終わりには話せる相手が増えてきました

 

【練習の経過】

はるかさんとは2ヶ月に1回程度のペースでオンラインでの面談を継続し、話せる相手や場面を増やす練習について相談しました。はるかさんとの面談は、文字チャットか母親を通した聴き取りで行いました。

はるかさんとの相談の経過について、時系列で見ていきましょう。

 

面談1回目(4月):目標と練習メニューを考える

・母親から現在の状態を詳細に聴き取った後、はるかさんと文字チャットでやりとりをしました。「学校で友だちと話したい」という気持ちがあることが分かり、さらに詳しく聴いていくと「特定の友だち(やよいさん)と話せるようになりたい」と思っていることが分かりました。そこで「話す練習」の進め方について説明し、どんな練習ができそうかを相談しました。はじめから声で話すのは難しいようでしたが「メールのやり取り」ならできそうだということで、しばらくは「やよいさんとメールのやり取りをする」という練習をしてみることにしました。

・学校は、他の生徒がいたり注目されたりするのが怖く、今は日中は行けないとのことでした。週1回、放課後に行く取り組みをしていたので、このときに担任の先生と話す練習ができそうか考えてみることにしました。

 

面談2回目(6月):メール交換からビデオ通話でのチャットへ

・宿題にしたメールのやり取りは5回行うことができました。不安レベルが少しずつ下がってきたので、次のステップに進むかを相談しました。どんな方法が出来そうかを考えた結果、「ビデオ通話のチャットで話してみたい」ということだったので、これを次回までの練習メニューにしました。時間差のあるメールのやり取りから、リアルタイムでのチャットに前進です。

・担任の先生との練習については、会うことはできても声を出すことはできなかったようです。はるかさんと相談の結果、中学校の先生と話す練習はしばらく行わないことにしました。

・イラストをSNSに投稿し始めたところ、知らない人からいいねやメッセージをもらうようになり、自分でも返信するようになったとのことです。またフリーマーケットで自分のイラストのポストカードを販売する機会もあったそうです。

 

面談3回目(8月):練習が停滞、学校外では活動の幅が広がる

・今回ははるかさんは面談には不参加だったため、母親から最近の様子を聴き取りました。

・ビデオ通話のチャットは練習できているものの、かなり緊張が強い状態が続いており、練習が少し負担になっているかもしれないとのことでした。一方学校外では活動できることが増え、遠出をしたり、別の友だちの家に遊びに行ったりすることができたとのことでした。

・「練習が負担なようなら休むか、内容を考え直してもよいので、本人とよく相談してみて」「普段の生活の中でできていることがあるので、今の時点では話す練習ができなくても、そういったことが広がっていくことが大切」と母親にお話ししました。

 

面談4回目(11月):「先生と話せるようになりたい」

・はるかさんとは前々回から5ヶ月ぶりの面談でした。友だちのやよいさんとのビデオ通話はお互いの顔が見える状態だと緊張するとのことでしたが、絵しりとりのときに声を出せることが何回かあったそうです。これについては同じ練習を続けることにしました。

・今回はじめて、「中学校の先生と話せるようになりたい」という意思が示されました。「先生の前でお母さんと話すのができそう」とのことだったので、「週に1回、放課後学校に行った際に、職員玄関で担任の先生の前でお母さんと話す練習をする。話す内容は「今日あったこと」で、母親から「何の絵を描いたの?」のような質問ししてもらってそれに答える」という練習を行うことにしました。

 

面談5回目(翌年1月):症状が改善し始めた

・この頃から、少しずつ家庭以外で話せる場面が出てきました。やよいさんとのビデオ通話では「こんばんは。」と言えたことをきっかけに、フリートークもできるようになったそうです。なぜ話せるようになったのかをはるかさんに聞いてみましたが、「分からないです」とのことでした。

・学校でも、知らない先生に声をかけられて返事ができたというエピソードがありました。「中学校の先生(全員と)と話せるようになりたい」「中学校に行けるようになりたい」という気持ちがはっきりとあることが分かったので、担任の先生と直接話す練習の計画を立てました。「週に1回、放課後学校に行った際に、担任の先生としりとりを30回する」という練習を行うことにして、できそうなら「先生からの質問に答える」にステップアップしていくことも確認しました。

・学校外では、市の教育支援センター(教育委員会の設置する不登校の子のための教室)に1年ぶりに通うことができ、先生の前で母親と話すことができたとのことでした。また母親の知り合いの人と話せたなど、家以外で話せる場面がありました。

 

面談6回目(翌年3月):症状が大幅に改善

・やよいさんと2年ぶりくらいに直接会う機会があり、対面で話すことができたとのことです。現在はビデオ通話ではかなりおしゃべりをすることができるようになりました。

・担任の先生と話す練習(しりとり)は5回行いました。教育支援センターにも定期的に通い始め、そこの先生とは何度か会話をすることができました。中学校よりも教育支援センターの方が「不登校の子専門のところだから安心する」ので話しやすいとのことでした。

・大きなコンベンションセンターで開催された通信制高校の合同説明会に参加し、色々な学校の情報を収集したり、担当の先生と話したりできたそうです。はるかさんの中で中学卒業後から将来の夢である「イラストレーター」になるための道筋をしっかり思い描くことができ、「同い年の友だちと話せるようになりたい」「みんなについていける学力をつけたい」「イラストが専門的に学べる学校に行きたい」といった目標が明確になりました。

・中学2年生になるに向けての目標として、学校に通う日数を増やすよりも、「新しい学年の先生と話せるようになること」を目指すことにしました。4月になったら「新しい担任としりとり」から練習を始め、「他の教科の先生としりとり」にも挑戦してみることにしました。

 

【解説】

ほとんど学校には行けない状態でも、しっかりステップを踏んで練習を進めていくことで緘黙症状の改善につながっていきました。

はるかさんについては緘黙症状の改善をSMQ-Jという尺度で記録しましたのでご紹介します。SMQ-Jは「Ⅰ社会的場面」「Ⅱ学校場面(教師)」「Ⅲ家族関連場面」「Ⅳ学校場面(同級生)」の4つの場面について、どのくらいの頻度で話せるかを03で評価するもので、数字が大きいほどよく話せていることを示しています(各領域の最大値は3)。この図から、3領域で症状が改善していることが分かります。なお「Ⅳ学校場面(同級生)」が0なのは、緘黙症状だけでなく「学校に通えていない」ことが理由だと考えられます。

はるかさんSMQ-J.png

では、はるかさんの話す練習が上手くいっている理由を考えてみましょう。

こちらの記事で緘黙症状改善のための3要素【WPC】について述べましたが、はるかさんの場合はどうだったでしょうか。

W(本人の意思)】本人が「話せるようになりたい」と思っていた

P(綿密な計画)】面談で本人とのやりとりができ、一緒に計画を考えることができた

C(関係者の連携)】友だちや中学校の先生の協力を得て、練習が継続して行えた

 

はるかさんの場合は、WPCのすべての条件が揃っていたことが分かります。Pについては約2ヶ月に1回の頻度で面談をしていたので、その時々の状況に応じてかなり詳しい計画を立てることができました。

Cに関しては、家族の協力がしっかりとあったことも大きいです。学校に行きづらいはるかさんを暖かく見守りながら、学校以外でできる活動を広げていった点が症状の改善につながったのではと思います。

なお、はるかさんと私の面談は、現在の時点でも「文字チャット」か「母親を通した聴き取り」です。別の記事でも書きましたが、このように、カウンセラーと直接話せなくても緘黙症状の改善はできるということも、ぜひ知っておいてください。

 

はるかさんとの面談はこれで終了ではなく、ここからまだ症状が改善していくことが期待できます。また別の機会にご紹介できたらと考えています。

 

 【注意点】

事例の紹介にあたっては、本人及び家族の同意を得ています。

ただし個人に関わる情報ですので、転載は絶対にしないでください

また必要に応じて細部を改変していますので、事実と異なる場合もあります。

 

この事例の紹介はあくまで個別のケースに対して上手くいった方法です。

同様の方法を行っても、他のケースに対しては効果がない場合もあります。

練習メニューを考えるにあたっては、様々な要素を慎重に考慮した上で、個々に応じた方法を選択するようにしてください。